2019-02.マテリアルズインフォマティクス(MI)成功のカギはRPA?

 来月から新年度。どの会社も新年度に新しい取り組みを進めるケースが多いだろうが、私が携わる素材・化学系の多くの企業において「待ったなし」になると考えているのが「マテリアルズインフォマティクス」。

 

■マテリアルズインフォマティクス(MI)とは

 マテリアルズ・インフォマティクスとは「データマイニングなどの情報科学を通じて新材料や代替材料を効率的に探索する取り組み」

(出展:マテリアルズ・インフォマティクス:株式会社日立総合計画研究所

 

 この動きは2011年にアメリカのオバマ政権時のMGI(Materials Genome Initiative)プロジェクトに始まる。そこから今に至るまでの歴史に関しては、以下のリンクが詳しい。このクオリティの資料が無料で閲覧できるって素晴らしい。

https://www.jst.go.jp/crds/pdf/2013/SP/CRDS-FY2013-SP-01.pdf

 

■今までの研究開発とどう違う?

 今までの研究開発の流れを乱暴に簡素化すると

①「(〇〇という仮説から or なんとなく)これがいいのでは?」と思って作り、

②作ったモノを調べてみるとダメで(上記仮説が間違っていると気付き)、

③また「じゃあこっちの方がよいのでは?」と思って作り、

④やっぱりだめで・・・の繰り返し

 

 これが100個に1個、1000個に1個しか当たらないという世界。製薬業界ではこの確率がさらに下がり、時代とともにその確率がさらに下がり続けている。よって製薬業界では自社開発を続けるのに加え、既に有望な候補材料を発掘したベンチャーと連携する方が合理的となる。

 

 MIは上記の様に新しいモノに一目散に飛びつく前に

①それまで蓄積した「モノ」と「実験データ」を集め

②「人間が思いつかない/まだ気づいていない相関」を見出し

③その相関を元に、提案されたモノの中からよりよい候補を選抜する、という流れ。

 

 これまでの研究開発と比べるとなんだかちょっとスマート。この取り組みが本当に機能するなら、従来の研究開発は不要になると直線的に考える方が多い。実際にこの1年での多くの大手化学・素材会社はMIへの取り組みを明文化している。

 

●三菱化学:マテリアルズ・インフォマティクス Center of Excellence (CoE) の発足について(2018 年 6 月 27 日)

https://www.mitsubishichem-hd.co.jp/news_release/pdf/00695/00779.pdf

●富士フイルム:人工知能技術の研究開発組織を設置(2018年7月9日)

https://www.fujifilmholdings.com/ja/news/2018/0709_01_01.html

●住友化学:2019~2021年度 中期経営計画を策定(2019年3月12日)

https://www.sumitomo-chem.co.jp/news/detail/20190312.html

 

 日経エレクトロニクスでも昨年特集を組んでおり、上記の流れが一層早まったのではと考えている。

待ったなし!AIで材料開発 | 日経 xTECH(クロステック)(2018年10月号))

 

■で、MIはうまくいくの?

 このMIが今年、来年、再来年に実用化されるなら今化学を学んでいる学生は、今からでも遅くない、異なる分野を学んだ方がよい。

ですが話はそう簡単ではない。個人的に感じているMIの課題として

 

①それまで蓄積した「モノ」と「実験データ」を集め

→データ数はどれくらい必要?実験データは5年前と今で測定条件は同じ?(前提条件はそろっている?)

 

②「人間が思いつかない/まだ気づいていない相関」を見出す

→本当に相関が見つかるか?その相関は正しいか?事実と異なる相関を真実だと捉えると、それ以降の取り組みは全て的外れになる

 

 ①だけでも課題山積。特に①のデータの前提条件の問題は根深く、同じ材料であっても企業間でも測定条件が異なるし(それが秘密情報で未来永劫開示できない場合もあるし)、大学でも時代と装置が変われば測定条件が変わる可能性がある。

 さらにそれらを検証する人がいないと、そのデータセット自体が危なっかしい。機械学習の分野でいわれるデータクレンジングがMIの世界でも必須。

 私はこの①の段階でMIは無理筋では?と思っていましたが、以下のような会社間を跨いだ取り組みも始まっており、難しい点もあると思いますが心から期待しています。

 

●NIMS・三菱ケミカル・住友化学・旭化成・三井化学、オープンプラットフォームの運用に関する覚書に調印 

https://www.nikkei.com/article/DGXLRSP448512_Z10C17A6000000/

 

■じゃあMIの一番の問題は?

 超絶前置きが長くなったのですが(今までが前置きかよw)、私がMIで一番課題だと思っているのが③です。③のどこが問題でしょう?

 

③その相関を元に、提案されたモノの中からよりよい候補を選抜する

 

 

ずばり「提案」。

 

これ、「誰が」提案するの?

 

 先の日経エレクトロニクスの記事をむさぼるように読んで気付いたことがあった。それはMIの成功例の9割が、電池電極材料を始めとする「無機材料」であったこと。私は無機分野は専門ではないですが、無機材料には

 

❶無機元素の結晶から成り、元素同士に固有の相性があるため結晶の種類が限られ、結果として最終的な選択肢は「有限」になる

❷結晶で発現する特性が無機材料の特性の大半を支配する

 

といった特徴がある。一方で有機材料は、

 

❶無機元素と同様に元素同士の結合に制限はあるが、結合「箇所」が膨大で、選択肢が「無限」になる

❷有機材料は結晶だけで特性発現するものは少なく、例えば膜にすることで電気が通ったり、色が出る等の特性が発現する。そこで成膜時の材料の配向や安定性、他の材料とのすり合わせ等、追加すべきパラメータが多い 

 

という傾向がある。

 

 私が最も課題と思っている「提案」に話を戻す。

 無機材料はその選択肢が有限であるため、計算対象材料を自動的に生み出す自動発生が可能。一度自動発生ができればそこから特性値を予測し、さらに特性値を上げられるような次の候補材料を自動発生させ、予測するというサイクルをコンピューター上で365日回せる。

 こうなると人間が思いつかない組み合わせや発想を、MIから導くことは可能性が高くなると思うし、実際に成果も出つつある。

 一方で有機材料は、2019年3月時点、この自動発生がまだできないというのが私の理解。このプロセスを人間に頼ってり、これならいくらMIを使っても驚く選択肢は出てこない。だって提案は人間がしているんだもの汗

 

 有機材料へのMI導入はこの自動発生が肝なんじゃないか?と最近実感するようになりました。どこかで「有機材料の自動発生」に取り組んでいないかなあと思ったら、この取り組みって、巷でホワイトカラーの仕事を奪うと言われているRPA(Robotic Process Automation)そのものじゃないか?と思うようになりました。

 

 今まで研究に関係ないと思っていたけど、研究開発とRPAって相性いいのかも?と初めて実感。この取り組みを行っている組織があればその動向をウォッチしながら、その仕組みを使う側に回るべく、準備したいと思います。

2019-01.素材のMaaS(Material as a Service)

2019年1発目ブログ。

 

昨年、正月からブログを書きまくり、成人式を待たずに失速した反省を踏まえ、今年は最低でも月1回、素材・化学に纏わる今後のトレンドを、webに載っていない所まで深堀りして記録していこうと思う。

 

と、これでも十分ハードルが高かったため、今年1発目の更新が今日(1月最終日)になったのだけど。

 

●MaaSはMaaSでも、Mobilityではなく・・・

今月一番気になった素材系のニュースはこれ。

「素材産業にも「MaaS」 三井化学、義歯を自動設計 」

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO40286970R20C19A1TJ1000/

 

世間一般に言われるMaaSは"Mobility as a Service"ですが、素材系は当然「Material as a Service」。この記事では三井化学を始め、旭化成、AGCとバイエルやBASF等の名だたる化学系企業が、サービスへのシフトを進めている、という特集が組まれています。

 

 今までは直接の顧客である企業から依頼があって、開発して、量産して、売り切って終わっていた素材を、顧客(企業あるいは消費者)に対して価値があり、かつ継続的なサービスに繋げるかという取り組みが、化学・素材系大企業の中でじわじわ始まっているということでした。

 

●これまでの開発とどう異なるのか?

 今まで素材は軽薄短小という「軽くて」「薄くて」「短くて」「小さい」という目標に向かって開発する方向はありましたが、仮にその機能が実現しても、そのまま価格に反映するとは限りませんでした。

 

 例えば今まで耐久期間が1年だった材料が2年持つようになったとしても、その素材に2倍の値段がつくことは寧ろ稀であったと思います。「前と同じ値段で2倍の耐久性でお願いしますー」的なw

 

 しかし、仮にMaterialにもService、つまりサブスクリプションのような仕組みが使えるなら、「使われれば使われるほど日銭が入ってくる」という仕組みが産まれます。

 

 例えばタイヤ。仮に1本4万円で1セット16万円のスタッドレスタイヤがあるとして、それらの素材の耐久期間が2倍に長持ちします!とアピールして2倍の値段になることはあまりない。

 しかし、タイヤのホイールにセンサーを組み込んで回転数をモニタリングすると、「動いた距離に応じて材料にお金払う」という仕組みが作れるのではないか。

 そうなると、走った距離だけすり減ったタイヤ(もとい、ゴム)にお金を払うという仕組みは、走った分だけ払っている今の保険と何ら変わらない概念になると思う。

 

 これが実現すれば、耐久性のよい材料、についての研究開発に投資する価値が高くなり、日本が元来得意としていた材料開発技術力が再び活かせるのではないだろうか。同じものを作るだけなら安い土地で安い人件費で低い歩留まりでも大量に作れる大国には勝てない。

 

 他の例としては、例えば掃除機、洗濯機等の家電に使われるプラスチック。

これまでは「耐久性」「高級感」という価値で売り切りのプラスチックが多かったと思われるが、これからは「2年に一度その時の家庭や環境に合わせた素材に交換しますよ」「年齢とともに使いやすい素材や大きさに変えますよ」というカスタマイズすることに対しておカネを払ってもらう仕組みができないだろか。車検ならぬ家電検。

 そもそも家庭は、人数や年齢構成が常に変化するものなのに、家そのものや一度買った家電がずっと同じものとして使われ続けることの方がいびつなのでは?と感じる。車は人数によって形変えることは普通なのに。

 ということで、ものを使う人が常に変化するのであれば、その人が使うものが変化し、それに対応するサービスにお金を払うことはリーズナブルではないかと思う。

 

●で、本当にMaterial as a Serviceが実現するのか?

 Material as a Serviceに可能性を感じる一方で、大事なポイントは「材料にサブスクリプションの概念が当てはまるのか?」という点。

  そう思って、昨年発売された「サブスクリプション」を年末にざっと流し読みしてみた。

 

サブスクリプション――「顧客の成功」が収益を生む新時代のビジネスモデル 単行本(ソフトカバー) – 2018/10/25

https://amzn.to/2FXsdVP

 

 だが、実際の事例は小売業、メディア、飛行機、電車、自動車(これがMaaS)、新聞・出版業界等であり、素材に活かせそうな知見は見つけられなかった。

 筆者は「将来、あらゆるビジネスがサブスクリプション化する」という主旨を述べている。近いうちに材料系でも本気でこのような取り組みがじわじわ広がってくるのだろう。

 

 これからの世代に「所有から共有」というマインドが広まってくることを考えると、MaaSを提供する企業が努力するだけでなく、それを受け入れる消費者が増えてくることから考えても、まさに今がチャンスなのだと思う。

 

 

【余談】

 なんでこういう思考訓練をするのか?ということを考えてみると、単に個々のトレンドを調べ、将来の予測をしてみるだけでは面白くないので、こういう考えをしていくにつれ「あれ?これって新しい事業ネタになるんじゃね?」とか「あ、これ俺がやりたい!」とビビッと来るテーマを自分で探している、ということにも繋がっています。そんなテーマが、今年中に見つかることを期待しながら細々と続けていこうかと。

 

2018年の振り返り

2018年12月31日。思えば1年前の2017年大みそかに「ブログやってみよう!」と軽い気持ちで始めたこのブログ。途中からびっくりするくらいアップする頻度が落ちましたがw

2018年の大みそかは、鹿児島から青森まで新幹線で約11時間かけてのんびり考え事しながら移動しました。

 

今年1年、化学業界の顧客といえる自動車や家電、スマホといった製品に関するトレンドについて、いくつか気になる傾向が見られたのが印象に残りました。

 

①機能消費から意味消費へ:

 製品を「その機能が便利だから使う」というより、「こういうものを選んで使っているのが私という人間だ」という意思を示すものにお金を払う

(エコバックだったり、オーガニックの野菜だったり)

 

②個別化(カスタマイズ):

 高度成長期荷は当然だった「みんなが持っているもの(≒いいもの)をまずは手に入れたい」から「私という人間は私しかいないから、みんなと違うものが欲しい」へ

 

③シェアリング:

 ①と関連すると思うが「そもそもモノを持つってダサくない?」「え、新品買ったの?メルカリで安く買えるやん」「そもそも家とかいる?」という、所有から共有へのじわじわとした動き

 

④SDGs:

 前身のMDGsから先進国の人にも身近に感じつつあるSDGsを目にする人が増え、「地球を大切に」「資源を大切に」というメッセージも身近になってきた

 

 これらの動きはどれもじわじわという速度だけれど、

「いい製品を開発して、大量消費の前提で大量生産し、コストを安くして顧客もハッピー」という化学メーカーの鉄板勝ちパターンから、

「個別化・シェアされる製品は沢山は売れないので、沢山は作れない」前提になるので売上が下がることが想定される。

 大企業における「新規投資が〇〇億円必要だから、事業規模が大きくないとOKがもらえない」→「だけど売上が昔より見込めない」→「投資NG」という流れが来て、事業規模が小さくても尖った製品を作ることができるベンチャーだったり事業規模が小さくても顧客に選ばれる製品を作ることができる会社も、今まで以上に存在感を出せる時代が来るのでは、と勝手に妄想しています。

 

 11時間も考えているのに思考がだいぶ浅いですが汗、

この流れが来年も続くのか?

どこを見ればそのトレンドが読めてどこがティッピングポイントなのか?

について、自分なりの指標を持ちながら「で、私(当社)はどうするのか?」を考え続けていきたいと思います。

 

この現状を踏まえると、こういう行動に価値があるのでは?という仮説は1つ持っていますが、それは来年いろんな人に話しつつブラッシュアップしていこうと思います。

 

来年もひたすら考え、行動し続ける一年にしたいと思います。

で、日本はペットボトルをどうしたいのだろう?

久々のブログ更新。最近、以下2つのニュースが交互に目に入ってきて混乱している。

 

“海を殺す”マイクロプラスチック汚染、日本周辺は「ホットスポット」にも

https://www.huffingtonpost.jp/abematimes/micro-plastic_a_23462289/

 

ペットボトルコーヒー大ヒットの理由、サントリーが圧倒的優位

https://diamond.jp/articles/-/173745

 

「G7でプラスチックごみによる海洋汚染について協議され、合意文書が取りまとめられたが、日本は国内法の未整備などを理由にこれに署名をしなかった」と取り上げる一方で、「従来の缶コーヒーは中年男性が顧客の中心だが、スタイリッシュな印象のペットボトルによって、若年・女性層ニーズをつかんだことも、ブームになった要因だ」と分析する。ちなみにコーヒーの消費量は清涼飲料水の中で炭酸飲料、ミネラルウォーターに次ぐ3位であり、それらがどんどんペットボトルに置き換えられるとなると無視できる量ではない。

http://j-sda.or.jp/statistically-information/stati04.php

 

で、消費者はどっちに関心があるのだろう?海にプラスチックを流して汚染したくない?それともコーヒーをスタイリッシュにペットボトルで飲みたい?

 

 化学会社で働く身としては、消費者にとって便利なモノは作られるべきと思う一方で、ペットボトルをはじめとする化学製品の"ポイ捨て"が止まない/止むのに時間がかかるのであれば、積極的に代替策を提案すべきと考える。

 しかし、PET(ポリエチレンテレフタレート)の特長である「透明」「加工が容易」「リーズナブル」の代替樹脂は今のところ存在しない。だから今まで使われ続けてきている。

 

 となると次の手は「使いつつ廃棄物として問題にならないような手を打つ」フェーズを真剣に考える必要がある。例えば衣服に用いられるポリエステルは日本環境設計株式会社が色んなステークホルダーを巻き込みながら大規模にリサイクル事業を運営しており、ペット(ポリエチレンテレフタレート)においても、その分解プロセスにおいては一部明るい兆しも見えている。

 

ペットボトルを分解できる酵素が実験施設で偶然に生み出されたことが判明

https://gigazine.net/news/20180417-enzyme-eat-plastic-accidentally-created/

 

この酵素はまだまだ開発の余地があるだろう。私が仮に新規事業企画で陣頭指揮をとれるなら、この酵素開発を本気で行いたい。

 

■一度メリットを出してからデメリットを解決する

 いつの時代にも新しい製品やサービスにはメリットとデメリットが存在する。

 

 自動車が発明され、人の移動が劇的に便利になったと同時に発生した排気ガスや交通事故の問題に対して、自動車メーカーが燃料電池車や排気フィルター、あるいは自動運転に必死に取り組んでいるように、

 化学メーカーの屋台骨の一つであるプラスチックの廃棄問題に対し、必死に取り組む化学メーカーが一つでも多く存在してほしいと思うし、自分がその当事者になりたいと思う。

 サステナビリティやSDGsという後追いもある。持続可能を求めるマクロトレンドと、分解酵素という技術の進歩が合致しつつある今が絶好のチャンスのはず。後はマネタイズ方法を考えないと(次回までの宿題)。

 

SDGsを化学のテクノロジーで実現したい―①イントロ

 ひょんなきっかけから大学の学部を「化学」に選んで以降、気付けば15年が経ちました。

 あのころはそこまで化学に強い想いはなく、唯一興味のあった医薬品を創る手段としての有機合成からスタートしましたが、最近特に「化学」の意義を意識する機会が増えました。

 

 きわめて個人的な意見ですが、私個人としては

これがあるとさらに便利になるね」というモノ・サービスより、

これがないと(文字通り)死んでしまうかもしれない」というモノ・サービスを創りたいという想いが強いです。おそらく人より強すぎます。

 

 例えばスマートフォンには非常に多くの化学素材が使われており、皆さんが持てば持つほど、2年に一度買い替えれば買い替えるほど、売り上げが上がるデバイスです。

(余談:数多ある"モノ"のうち「10万円前後の価格」で「2年に1度の高頻度で当たり前のように消費者が買い替える」ハードは長い歴史上スマホしかない、という話を聞きました)

 

 ただし、仮にiPhone7をiPhoneXに変更しなくても、その人の人生が終わるわけではないし、Galaxy8が今後開発を中止したとしても、体調を壊して入院するわけではない(する人もいるかもしれませんがw)。

 

 そのような材料の開発や供給に対して、私は人生を賭けることができません。もちろん、そのような対象でも全力で開発に邁進しますし、会社の売上向上に貢献したい気持ちは強く持っていますが、「自分の人生を賭けてまで」とは思いません。それよりも、

 

 このろ過膜がないときれいな水が飲めなくなり、子供が体調を崩してしまう

とか

 このDPF(ディーゼルパーティキュレイトフィルター)がないと、車の排気ガスで体調を崩す人が増大する

とか

 この燃料電池によって、車の排気ガスがなくなり環境が改善する

 

の方が、やりがいを強く感じます。

 これは2011年にビジネススクールに入学した際に自分の取り組みたいことを1分で話す機会があり、そのときにうんうんと考えた時に、しっくり来た自分の判断軸でした。

 

SDGs(Sustainable Development Goal)

 上記のような思いが日に日に増してきていた2015年、国連サミットで持続可能な開発目標(SDGs)が採択されました。

http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/about/doukou/page23_000779.html

 

 これは2001年に類似の枠組みで設定されたミレニアム開発目標(Millennium Development Goals: MDGs)の後継で、MDGsにいくつかの目標を加え、合計17の目標が設定されています。

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(出典:http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/files/000270935.pdf

 

 ここには様々な目標がある中、化学が多いに貢献できるゴールもいくつかあるなと思った時、「これがないと(文字通り)死んでしまうかもしれない」という考え方とがちっとはまる感覚がありました。

 

 そう思っていたら、2018年の年頭挨拶で日本最大の化学メーカーである三菱ケミカルホールディングス 小林会長がこんなことをおっしゃっておられました。

 

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以下引用

「★本当に化学が必要な時代
 社会に貢献するという意味で、化学は極めて重要な産業です。国連のSDGs(持続可能な開発目標)の17のゴールをみても、化学にしかできないことが非常に多いですよね。空気や水を純化して綺麗にするシステムだとか、自動車の軽量化により温室効果ガスの削減につながる複合材料だとか、有機太陽電池で衣服を作るとか。CO2をカーボン源にして素材を生み出すのも、根源的には化学しかできません。素材はモノの世界で、それは分子の世界です。社会貢献のために化学にしかできないことばかりが残ってきたのです。分子レベルで設計するということでは、DNAも再生医療もそうです。生物学は分子そのものです。学問と産業がほとんど近いところに来る。そこでなければ日本は勝てない。この認識を皆が持つべきだと思います。」

http://www.kagakukogyonippo.com/headline/2018/01/05-32264.html

 

 私が言うのもおこがましいですが、この内容に完全に同意です。じゃあSDGsが具体的に何で、それに対して化学は具体的にどんなことができるのか?について、自分の頭の整理も兼ねてこの後一つずつピックアップしていこうと思います。

化学産業がシリコンバレーに行く意義-仮説③顧客の動きを察知する

 私は昨年、3月と11月にSVを訪れました。3月は県のネットワーキングプログラムとして30名程度の団体として訪問し、初日にさっそく定番のPlug and Playへ。

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(定番の入り口にある入居者リスト)

 Paypalなどの有名企業と聞いたことのない企業が数多ある中、私の頭の中は「ここにもしうちが入居したらケミカル産業として最初じゃない?」と、入居する意義や目的そっちのけで妄想してました(一番やっちゃいけない考え方)。

 

 そう思いながら「ケミカル、ケミカル・・・」とつぶやきながら探していると・・・・

 

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 DNP(Dai Nippon Printing)

 

 やっぱり一番乗りはないかw そもそもDNPさんはケミカルという領域より、ここではおそらく新しいメディア関係の事業を目的として入居されているのではないだろうかと推察。

 

さらに、ドイツの化学会社「Henkel」も

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(やっぱり化学産業はないなあーーーあ、ヘンケルや!と虚を突かれて手ブレwww)

 

 こういう事をしている時点で、考えが浅いことがよく判ります。 

 

で、何のために入居するの?

 PnP初訪問時は、とにかくここが老舗のインキュベーションオフィスとして「何かすごい場所なんだろう」と思って訪問しました(これもダメなパターン)。

 入居している方の説明では、ここにいるベンチャーはAR、VR、ドローン等のハード系であれ、Fintech等のソフトウェア系であれ、とにかく流行りのベンチャーが多く、日本の企業はその情報をとるために入居している企業も少なくないと聞きました。

 

 そのエリアに「化学企業」が入ってどんな意味があるのか?

 私は(かなり無理矢理)「AR,VR,ドローンも各材料が必要になるから、その動向を把握しそれらのデバイスの実現に向けた素材を提供するんだ!」と考えました。といいながら自分でも全くしっくりきておらず、かといって「ここに化学産業が入ることは無意味だ」とも断言できず、もやもやして帰国しました。

 

「PnPはたいしたことはないよ。ただし・・・」

 そして11月のSV再訪。ある方に「前回PnPに行って、ここに当社が入れば新しい動きができるのでは?と一瞬考えたんですが、その意義や目的がかなり弱いんですよね・・・」と話すと、

 

「PnPが特にスゴイという認識はないし、確かに化学産業が入っても直接的な事業には繋がりにくそう。ただし、

 

我々の顧客がどういうイベントに数多く顔を出している、とか

我々の顧客がどういう情報を欲しがっているとか、

 

そういった顧客の最新の動向は、PnPのようなインキュベーションオフィスや関連イベントに顔を出していると見えてくることがあるので、

"顧客の動きを察知する"という意味だと、ああいうインキュベーションオフィスは使えるかもね」 とコメントを頂きました。

 

 確かに化学産業の顧客である自動車産業や家電メーカーが、今後どう動こうと試行錯誤していて、どういう情報を得たいと思っているかを察知することができれば、それに対して

 

攻めの姿勢:仮に「自動車産業の電気自動車への傾倒が本格的になった」と察知すれば、「電気自動車を構成する素材(EV用電池や高耐熱性樹脂とか・・・)の開発・提供に今以上に本気でシフトさせる」とか

 

守りの姿勢:仮に「顧客自身が材料開発に乗り出そうとしている」と察知すれば、「化学産業が所有しているビッグデータとアルゴリズムを駆使し、材料開発を効率化させる」などの

 

 アクションに対する確度が上がるのでは?と感じました。

 とにかく、何でもかんでも直接的に「自社の動きにつなげられないか?」と考えるだけでなく、「顧客の動きを察知する」という間接的なアクションも意義があるという、私にとっては少し肩の力が抜けた新しい気付きがありました。

化学産業がシリコンバレーに行く意義-仮説②「モノからサービス」を具体的に考える

 昨年11月中旬に1週間シリコンバレーを訪れました。

 色んな目的があったのですが、その一つに、現地で当たり前になりつつある車のシェアリングサービスに化学産業を掛け合わせた事業案を考えるということ。

 

 先の投稿(http://beyondthechemistry.hatenablog.com/entry/2018/01/06/002555)のように、モノをシェアする時代がやってくると、そのモノは売れなくなります。モノが売れなくなると、モノを構成する要素も同様に売れなくなる。

 

 例えば車が売れなくなると、タイヤやガラス、ボディーも売れなくなる。正確に言うと売れる数が減る。人口減少もなく、所得低下もなく、外部要因が全く変わっていないのに売り上げだけが単純に減るという「ちょっと待てよ!」というシーンが来る可能性があります。

 

だから「モノからサービスへ」って?

 このような局面を迎えるにあたり、製造業では"「モノ」から「サービス」へ""「モノ」売りから「コト」売りへ”というフレーズをよく耳にするようになりました。私がその時よく理解できていなかったのは、「じゃあ今までモノばかり売り切りだった企業が具体的にどう転換するのか?」という点です。

 

 今回、それを考えるヒントをもらえたのが、現地で何回も使ったUber、ではなく競合のLyftで出会ったドライバーとの会話でした。

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(写真:空港から最初に乗ったLyft。ガラス右側に四角いステッカー(Lyft)と丸いステッカー(Uber)。彼はLyftドライバーでありUberドライバーでもある)

 

 いかつい運転手は黙々と運転する。ちょいちょい話しかけていると、途中でこんなやりとりがありました。

 

私:Lyftだとあちこち運転すると思うけど、どの辺に住んでるの?

Lyftドライバー(ド):ここから20分くらいのところ。行動範囲も大体この辺が多いで。あ、でもカーステーションに行かないといけないのが面倒やわ。

 

私:カーステーション?

ド:おう。実はこの車、俺のじゃないんだ。だからカーステーションに行かなあかんねん。

私:へ?借りてるってこと?誰から?

 

 

ド:Lyftから。

 

私:へーLyftはそこまで準備してでもドライバーを増やしたいんやね。で、カーステーションって何よ?

(私の心の中:よし、ここで私の仮説「一日中走り回っても壊れない耐久性のある車」があったら嬉しい?って聞こう。絶対欲しいって言うはずだ!)

 

ド:Lyftは市(city)に一つずつサービスステーションがあって、半年に一回行かなあかんねん

 

私:半年?車検みたいなもん??

 

ド:車検って知らんけどww とにかく半年に一回。結構チェック待ちの車で混んでてチェックされるのに時間がかかる。

 

私:チェックして問題なければ?

ド:それで終わり。また走り出すだけ。故障しかけていたらパーツとか替えることもあるし。

 

私:(ハッ!)じゃあそのカーステーションに、

「予め交換必要なパーツが判ってて用意されていて、到着後簡単なチェックの後にすぐパーツを替えて終わり」ってなったら嬉しい?

 

ド:そりゃ嬉しいんちゃうか。チェックする人員も減るだろうし。

 

大量生産からオンデマンド生産

 これまでのような巨大工場で各パーツを大量生産し、在庫を持ちながら適宜各地域の拠点に運搬する方法でもよいですが、一義的になり、振れ幅のあるニーズに対応するのは逆に非効率になりそう。適材適所にオンデマンドでパーツさえあればいい、という必要条件であれば、3Dプリンターで作る方が優位です。

 

 各拠点に3Dプリンターを置き、車の部品の劣化度合いや定期交換時期は予めセンシングしておく。車がサービスステーションに入ってIDを認証するだけで、交換部位の有無なども瞬時に判断できて効率化に繋がります。

 そして車の故障頻度や回数は都度変動するので、車が到着する時間が判ればパーツを現地で生産して待機しておくオンデマンドサービスに繋がるのではと思いました。そうなると化学企業も自社のパーツを3Dプリンタ―で生産しつつ、その他の製品も取り揃えておく、シェアリングを支えるプラットフォーム事業に進出できるのでは、と。

 

軍隊でも3Dプリンター?

 このぼんやりとした考えがフラッシュバックしたのはそれから3日後、IDTechEx Showというカンファレンスに参加した時でした。

 錚々たるテック企業が最先端のテクノロジーやデバイス、ビジネスを発表する中、登場したのは泣く子も黙るUS army。

 

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 表紙からも、登壇者からも、漢のにおいしかしないw

 

 ですが内容は至って全うで、一言でいうと

「陸軍にとって3Dプリンターの活用が極めて大事」というお話。キーワードは「readiness」(=準備万端)でした。

 

 軍隊は武器等を持ちながら各所を移動しないといけないし、戦闘が長引くと武器が不足してくる。その時、に各滞留拠点で武器を作ろう、というロジカルなような怖いようなコンセプト。

 

 実際にグレネード弾を3Dプリンターで作ったらパフォーマンス?が30%増したぜ、との報告もありました。軽量であり必要になってから作ればOKなのでいいことずくめだそう。

 事前にアブストラクトを見た時は「まあ一般論を語るんだろうな。陸軍だからあまり秘密な話はできないだろうし」と思っていたので、グレネードのくだりから驚きの連続でした。軍隊の中にある10個前後の組織が協力してさらなる開発にいどんでいるとのことでした。

 

まとめ

 今回、シェアリングサービスや軍隊(!)においても、その場でオンデマンドでモノを作る、というシーンに価値があるということが判りました。全てそうなるわけではないですが、顧客とその使うシーンを具体的にイメージできれば、これまでの大量製造ありきの製造の役割の一部置き換える可能性が十分にある、ということを実感しました。

 

 また、各パーツを製造する化学産業であっても、そのようなオンデマンドサービスに自ら参入し、自社のパーツを含めて提供することを「サービスを提供する」、と言えて、化学産業におけるサービス化やコト売り、と捉えると少し具体性が増したかな、と感じた経験でした。