「勝つために何ができるか?」という執念

 土日のブログは化学を離れ、私が最近感じたことをつらつらと書いていきます。

 昨年12月からお正月までの間で私は3回「最終決戦」の場に触れる機会がありました。

 

①M1決勝(12/3)

②始動 最終報告会(12/16) 

③箱根駅伝(1/2,3)

 

 これらを観たり参加した私は、そこで勝負をかけてきた人・チームの姿勢に対し、畏怖の念を覚えました。それが「勝つために何ができるか?」という執念

 

M1決勝

 優勝したとろサーモンは好きで嬉しい結果だったですが、それ以上に感動したのは、皆さんも感じられたかもしれませんが、ジャルジャルの福徳。

 背筋ピーンのネタは、好き嫌いが出るだろうし(実際に決勝には進まなかったが、松ちゃんは"僕は一番おもしろかったんですけど"と言っていた)、一つ噛んだらリズムが狂って面白くなくなるリスクがあった。それを本番で選び、決勝に行けなかった時に泣きそうになっていた彼はきっと勝つために何ができるか?」という執念があったのではと感じました。でないとあの涙は出ないと思う。

https://sirabee.com/2017/12/04/20161399134/

 

始動 最終報告会

 始動について補足すると、2017年で3年目を迎えた、経産省が後援しているイノベータを育成するプログラムです。

http://sido2017.com/


 大企業や官庁、ベンチャー経営者等のメンバーが個々の事業企画案を持って集まり、その内容をブラッシュアップするというもので、2017年7月から12月まで行われていました。

 全部で126名が参加し、最終的に20名が選抜されてシリコンバレーに行き、現地でさらに事業企画をブラッシュアップするというもので、その選抜のための最終報告会が昨年12/16に行われました。

 報告会でのピッチ時間は4分。審査員は3名で全員初対面。6つの部屋に約20名ずつ別れて同時進行でピッチ開始。

 ちなみにM1と違って最初から発表順番は決まっていますw 私は確か13番目。

 

 私のプランはある程度形がまとまっていたので、そのまとまりを壊さずにより魅力的な企画案になるよう、ピッチのスライドを少しずつ修正して本番を迎えました。

 結果、今まで一番うまく話せて自分の力は出し切りました。「恙なく」終わった、という感じ。脱力しながら後のメンバーのピッチを聞いていると、最後のメンバーが、今までと全く違うテンションで、審査員や同室のメンバーの眼を見て語りかけました

 

「審査員の皆さん、突然ですが今背筋曲がっていませんか?私が解決したい課題は〇〇で・・・」

 

「うわ、こいつ勝負に出たな」と直感的に感じました。さらに、ピッチ半分くらい経過した時に、

 

 「皆さん、こうしている間にまた背筋が曲がっていませんか?このように、背筋を維持するのはとても難しくて・・・」

  という語り口調で、終始自分の土俵に引きずり込んだピッチでした。

 

 「初対面の審査員に4分で事業計画を全て説明するなんて不可能だ。じゃあ、勝つためにどうする?そもそもここで勝つとはどういうこと?選抜してもらうことが目標だ。そのためには審査員の残像に焼き付くくらい強烈な印象を与えないと・・・じゃあ・・・」

 

 と彼が思ったかどうかは判りませんが、最後のピッチであのスタンスで挑んだ彼に、私は「勝つために何ができるか?」という執念を感じました。正直、そういう姿勢ができる彼を心から羨ましく思い、「恙なく」終えた自分を恥じました。

 

ただ、二人とも選抜メンバーには選ばれなかったのですがorz

 

③箱根駅伝

 年末に①,②を経験したため、なんかそういう事象がないかと探しに行った感は否めないのですが、例年通り箱根駅伝を観ていて私が驚いたのが、往路優勝した東洋大学のメンバーラインナップ。それがこちら。


1区 西山 和弥 1年  区間1位
2区 相澤 晃    2年  区間3位
3区 山本 修二 3年 区間1位
4区 𠮷川 洋次 1年 区間2位
5区 田中 龍誠 1年 区間9位 往路1位

 

 私が驚いたのは、学年 でした。

 1年生が3人もいて、4年生が一人もいない。東洋大の酒井監督は「同じ力なら下級生を使う」というポリシーであったとはいえ、何が起こるかわからない箱根駅伝で高校生卒業したばかりの1年生をしかも往路で配置するというのは驚きです(層の厚い青山学院大学は半分以上が4年生)。そしてその期待に見事応えたメンバーが往路優勝を実現。

 ここでも監督が、ライバル青学に「勝つために何ができるか?」という執念を燃やして戦ったのでは、と勝手に解釈しました。

 http://www.hochi.co.jp/sports/feature/hakone/20180103-OHT1T50062.html

 

まとめ

彼らはいずれも

「今のままでは勝てないよね」

「そもそも〇〇は強すぎるよね」

「このままいくと3位くらいじゃない?」

 

ではなく、

 

今の戦力で「勝つために何ができるか?」を考え続け、そのアイデアをもって本番の最終決戦に挑むという、粘り強さと執念を感じました。

 

 このことは何もピッチ大会やスポーツの試合だけでなく、普段の仕事でもどの業界であれ競合が存在すれば

「今のままではコンペに勝てないよね」

「そもそも(シェア1位の競合)は強すぎるよね」

「このままいくと少しくらい受注がとれるんじゃない?」

 

 と心で思ってしまうシーンは社会人ではあり得るのではと思います。

 そこで諦めずに「勝つために何ができるか?」を考え抜いて、一泡吹かせてやろうという、ジャイアントキリングのような挑戦をできる個人やチームになろうと強く感じた年末年始でした。

 

 

てか、本ネタの化学の話より長いしw

「シリコンバレーD-lab.レポート」の衝撃

私が「beyond the chemistry」を本気で考えるきっかけになったのが、2017年3月に公開された「シリコンバレー D-lab. レポート」です。

 

シリコンバレー D-lab.レポ―ト

http://www.meti.go.jp/press/2017/04/20170404002/20170404002-1.pdf

 

このレポートは、シリコンバレーでの自動車産業の激動を目の当たりにしたJETRO、在サンフランシスコ日本国総領事館パナソニックトーマツベンチャーサポートの有志4名が、現地の有識者の方へのヒアリング結果を元にまとめた全124ページの大作です。

 

経産省の支援があるとはいえ、「これ、無料で公開していいのか?」というレベルの内容で、とても知的好奇心をくすぐられるものでした。

 

【内容】

目次はこんな感じ(一部抜粋)

1.はじめに
2.自動車業界に起きている4つのビッグトレンドを理解する
-シェアリング
-コネクテッド
-電気自動車(EV)
-自動運転
3.自動車産業を襲う破壊的影響
4.新時代のビジネスチャンス
5.成功事例集(部品メーカー等)
6.各インタビューの概要
7.まとめ

 

4つのビッグトレンド

2.の4つのビッグトレンド(シェアリング、コネクテッド、電気自動車(EV)、自動運転)、個々のキーワードとしては日本でも特に最近耳にしますが、この4つはバラバラに存在するのではなく、因果関係があるということにも触れられています。

 

つまり、個々のトレンドが実現するかどうかを議論することより、その因果関係を認識し、その接点がいかに繋がるかどうかを見定めることの方がより重要だと感じました。

 

【最も衝撃的だったスライド】

また、製造業に携わる身としてはp32のタイトルが衝撃的。

 

 

「シェアリング移行により最大53%の保有台数減」

 

 

 

シェアリングが進んでいくと、最大で全世界の車の台数が、半分、になる。

 

 

ほぅ。

 

車の台数が半分になると、

 

 

車のインパネ、

 

ヘッドライト、

 

タイヤ、

 

窓ガラス ・・・・

 

も半分になる。

 

 

これは自動車に携わる全産業にとって衝撃的な予測だと思います。

自動車産業にとっては正に直面する課題であるため、例えばトヨタさんはシェアリングに向けて動きを見せたり(http://monoist.atmarkit.co.jp/mn/articles/1708/17/news054.html)、先日ホンダさんがコネクテッドの領域で中国のアリババとの共同開発を発表したり(http://www.sankei.com/economy/news/180102/ecn1801020006-n1.html)、待ったなしの状態ですが、

 

化学産業ではどれくらい切迫感があるか?については、まだまだこれから、という状態かと感じます。

 

じゃあ、化学産業はどう対応するの?という点に関して、昨年11月にシリコンバレーを訪問し、自分なりの仮説を考えてきたので、また次回に。

 

自己紹介とこのブログで書きたいこと

こんにちは、shotaと申します。化学会社で研究職をしています。

【自己紹介】

・神戸生まれの関西育ち

・幼いころお腹が弱く、正露丸のずば抜けた性能に感動したことから、創薬業界を志す。

・大学受験時に創薬の途方もないプロセスを知り「正露丸へ感動しただけでこの道に人生を捧げてよいのか?」と悩みだし、まずは潰しが効く有機合成が学べる「化学専攻」へ

・そのまま大学院の化学専攻を修了し、2005年に化学企業の研究者としてキャリアをスタート。これまで社会人歴13年で4つの部署を渡り歩く。

有機EL材料探索@つくば(4年半)

→②燃料電池用材料開発@大阪(2年半)

→③経営企画室@東京本社(3年半)

→④ディスプレイ用材料開発@大阪(継続中、2017年12月で2年3か月)

 

 この中でも経営企画の3年半は色んな意味で強烈な期間でした。自分の現在のマインドセットはこの期間に作られたと言っても過言ではありません。そのマインドセットというのは一言でいうと「これから化学産業はこのままで大丈夫?」という論点です。

 

【このブログで書きたいこと】

 私の理解では、これまで高度成長期の化学産業は、最終製品である自動車や白物家電が「性能がよいものは沢山売れ、沢山作るから生産コストが下がってその分利益が上がる」という構造の元で大きく成長しました。

 そのために我々は、顧客である自動車メーカーや電機メーカーさんのニーズをあらゆる手を使って聞きとり、それを実現する技術を開発して最速で応えることで信頼を勝ち取り、取引を増やしてきました。

 

 しかし現在、そもそもモノが売れなくなる時代が本気でじわじわとにじり寄ってきているように感じます。特にアメリカではUberairbnbをはじめとするシェアリングエコノミーが一定の支持を得ており(っていう表現何回も見てきたw)、一度その便利さを知ってしまうと元に戻れない感覚があります。私は昨年GWにインドでUberを何度も使いました。ホテルから空港に向かう事前予約したタクシーが遅れ、その後呼んだUberが安く心地よく空港まで送ってくれる、という白黒はっきりつく経験をしまして、もうインドで白タクやホテルのタクシーを使う気がサラサラなくなりました。そんな経験をする人が一人、また一人とじわじわと増えてくるのでは、と予想しています。

 

 そんなモノづくり受難の時代に、川上産業である化学はどのような取り組みができるか?という点を「これまでの〇〇を超える」という意味でbeyond the chemistry(もしくはbeyond the chemical industry)というタイトルに込めて、私が日々考えて(もとい、悶々として)いることをつらつらと書いていきたいと思います。

 

ただし、一般的な情報をまとめるだけではまったく面白くもなんともないので、そんなニュースをピックアップしつつもしっかりスタンスを取り、

「この技術は(世間の評判より)イケてる」

「この技術は(世間がちやほやするほど)イケてない」

 

という結論をはっきり出そうと思います。私よりもっと詳しい人がもしこのブログを観てくださっていたら、ツッコミ大歓迎です。

 

一方で、このブログで書いていることは、同業である化学産業の方に見ていただけるのももちろん嬉しいですが、それ以上に

サプライヤーに化学企業があり接点もあるけど、ぶっちゃけ化学ってよくわからん!という方

・化学と全く接点がないけど、ノーベル化学賞や「どっかの大学ですごい材料が見つかった!」というニュースを見ても何がすごいのかさっぱりイメージがわかない、という方

 

がたまに暇つぶしに見に来ていただき、「へーなんとなくわかった」という知識を得ていただくことができれば幸甚です。そしてそんな投稿の100個に1つでも、見ていただいた方の中でビジネスに繋がったり、数年後にどこかの誰かの検索に引っかかって、その方の気付きになれば望外の喜びです。

 

って、思ったより真面目な内容になってしまった。

明日からぼちぼち始めます。よろしくお願いします。