2019-08. 素材企業におけるサーキュラービジネス~(part1:自社の"廃棄物"を考える)

2019年もあと半月。

今年に入って「サーキュラーエコノミー」という単語を聞く機会が増えた。

www.huffingtonpost.jp

 

 記事中でサーキュラーエコノミーとは「従来の大量生産・大量消費・大量廃棄の経済モデルに代わる、地球環境や労働環境にも持続可能性をもたせるオルタナティブな経済の仕組み」とされる。

 

 ここに述べられている「従来の大量生産、大量消費」は従来の製造業の前提であった。人々が求めるモノをなるべく低コストで作るには、大量消費される前提で大きな工場で大量に作り、少しでも固定費を減らすことで製造コストを下げ、販売価格を下げていた。

 しかし今や、一生の中で高価な買い物に分類される、家や車、衣服などであっても、使いたいときに手元にあればよい、複数人でシェアしてコストを押さえる、それが合理的だよね、と考える人の割合が少しずつ増えてきている。

 このトレンドはほとんどの製造業(とそこに素材を提供する素材産業)にジワジワ影響を及ぼしてくるだろう。私が従事する素材産業としてどう行動していけばいいのか?という点を考え、行動しよう。

 

●素材企業におけるサーキュラービジネスとは?

 ここではあえて「サーキュラービジネス」という言葉に変えた。経営陣が「我々はサーキュラー"エコノミー"を実現します」というのはビジョナリーでよいが、現場の人間はサーキュラー"ビジネス"にして持続可能にしないといけない。

 その点で、先月発表された以下の取り組みは今話題の海洋ゴミを活用したサーキュラーエコノミーの実現に向けて大変啓蒙的ではある一方、コストを推測するにビジネスとしては成り立ちにくく、これはサーキュラービジネスに向けた端緒についた、という位置づけなのであろうと感じた。

www.sustainablebrands.jp

(記事より一部引用:テラサイクルでアジア地域を担当するエリック・カワバタ氏は「P&G社の協力がなければ実現できなかった」と話し、シャオファン氏はコストについて「赤字ではない」と言うに留まった) 

 

 「海洋ゴミ」や「マイクロプラスチック」は"世の中に出している"廃棄物。これに対して各企業がタッグを組んでこの問題を解決しよう!と動き出すのは良い流れであるが、どの企業がどの工程を解決するのか、そもそも廃棄される経路も複雑であり、少なくとも私は一体どこから手を付けていいか判らなかった。

 

 それよりももっと「自分が廃棄していることが明確で」「廃棄経路がシンプルで」「対策を考えやすい」廃棄物があるじゃないか、と気付いた。

 

 それは"自社が出している廃棄物"である。概要ゴミやマイクロプラスチックだけがサーキュラーエコノミーの対象ではない。

この考えは最近以下の本を読んでいて気付いた視点でもある。

 

ディープテック 世界の未来を切り拓く「眠れる技術」

https://www.amazon.co.jp/gp/product/4296103636/ref=dbs_a_def_rwt_bibl_vppi_i1

 

●"自社が廃棄している廃棄物"を減らす / 付加価値を与えることを考える

 化学企業なら「製造で使った排水」「原料が入っていた包袋」「実験室で使ったピペット」「使い捨てのガラス瓶」、さらには「製造時に副生する中間体やガス」など、たくさんの"廃棄物"が存在する。

 現在はそれらをある程度分類して(一部は再利用するものもあるが)廃棄し、まとめて焼却処分されているだろう。それを、何をどれくらい捨てているか判る自社だからこそできる方法を考えようと思う。

 自社では不要だが他の企業に求められないか、アップサイクルの方法がないか、別の用途に使えないか、少し加工して他の価値を生まないか・・・

 

●自社の廃棄物=自社の課題の解決

 今までは消費者にとって満たされていないニーズを満たすため、まずは製品の性能を向上させて顧客に性能面で訴求していた。

 巨大な産業である自動車も、まずは人を速く遠く快適に運びたいニーズから生まれたと考えると、今彼らが取り組んでいるEVや自動運転技術は、その製品が生み出した副作用、つまり自動車の排気ガスや交通事故を解決するサービスであると言える。

 

 化学・素材産業は、まずはその自動車(製品)を構成するために必要な材料を作ってきた。

 次はその材料を作るために付随した困りごと(環境汚染 / エネルギー消費等)を解決するために動ける時代が来た。これらは地球の環境問題の解決に繋がるアクションでもあるが、これまでは地球がお金を払ってくれる訳ではなく、「やってることは正しいがお金が稼げない」側面もあった。例えばレジ袋が通常無料か1枚5円で買っているところ、地球に優しい生分解性プラスチックで100円かかる、と言われると多くの人は選ばないだろう。

 

 しかし今や、欧州を始めとする各企業は、サーキュラーエコノミーを本気で押しており、最終顧客も性能ではなく地球に優しい姿勢を見せる企業を選ぶようなトレンドが来つつあると感じる。いい時代が来ている。個人的には、来年はそれに向けて全力で動いてみようと思う。