2019-06.素材とブランド(part2) ~素材に"新しい意味"を与えるデザイナー~

先日、以下のようなポストをした。

 

●2019-05.素材とブランド(多分part1) ~素材は"主役"ではなく"ツール"なのか~

http://beyondthechemistry.hatenablog.com/entry/2019/08/13/231840

 

 これは「欧米と比べ日本の素材産業の営業利益率を上げるにはどうすればよいか?」を考えたことが始まり。

 素材産業では、ある会社がヒット素材を世に出したとしても、技術的なハードルがない限り他社も追随し同等製品を作り、コモディティ化して価格競争になり収益性は下がる(他産業と同じく)。

 その収益性を維持するには、消費者に「性能面とか機能面も重要だけど、私はなんとなくこれがいい!」と思っていただけるような(最終製品の)ブランディングが効果的では、という流れでした。

 

 ブランディングの定義は様々だけれど、私が意味したいのは「この素材が使われているからこれがいい!」と想起してもらえる価値だと定義している。逆に言うと、素材産業でそのブランディングに成功しているケースはほとんどない。

 

●素材系でブランディングに成功している例

 素材でブランディングに成功している事例としていつも思い浮かべるのは以下の2例。

 

 

 

 

 

 

f:id:shotam:20190818114518p:plain

出典:https://www.gore-tex.jp/

f:id:shotam:20190818151249p:plain

出典:https://toyokeizai.net/articles/-/181356

 

 ゴアテックスは主にスキー、スノボの様なスポーツウェアに高い防水性能を、ユニクロ・東レは普段使いの服への吸湿・速乾性能を付与している。

 

 これらは一般消費者の方が製品だけでなくそれを構成する素材の顔まで見える稀な例。稀である一方で、現在では防水加工を施したウェアはゴアテックス以外にも多数存在するし、ヒートテック/エアリズムも同等の競合品が他社から雨後の筍のようにわんさか出ている。

 だけど消費者は「なんとなくゴアテックスだと安心」「東レという日本の大手繊維メーカーの素材だから間違いない」という感覚があるのではないか。この感覚はいつか覚めるのでしょうか?私は時代が経つほど覚めてくると予想しています。 

●今後素材に求められる価値は?

 じゃあ、素材産業としては次にどう対応するのか?

 私は、消費者に対して新しい価値、つまりこれまでの機能面の差別化ではなく「これを所有しているのが自分らしさである」というような、新しい価値(世間でいう"意味消費"に近いイメージ)を生み出したいと思っている。

 

 服なら快適性

 車なら燃費のような一本軸の機能ではなく、

 

 「それを好んでいる・使っている自分が自分らしさである」という説明がつくイメージ。その中で以下の記事も素材を価値を見出すようなアプローチに見えた。

 

●商品デザインに素材の力 心動かす新たな魅力実現

https://www.nikkan.co.jp/articles/view/00527561(要無料会員登録)

 

f:id:shotam:20190819193434p:plain

出典:https://www.nikkan.co.jp/articles/view/00527561

 

 こういう素材のそもそもの価値を掘り起こす活動は、同じ価値観で揃った社内メンバーではなかなかできない。そこで外部のデザイナー(これまた定義が広い)と連携し、そのデザイナーが実現したい世界を構築するための素材、としての価値を見出してもらうことには大変意義があると思う。

 なぜならその世界は他社が簡単に追随できるような世界ではないから。

  

 さらに「日本の」素材産業にとっての寄与を考えた時に、メンターから紹介いただいた以下の記事がそのきっかけになるのではと感じた。

 

●外国人が欲しがる「日本の高級ブランド」5特徴

https://toyokeizai.net/articles/-/294830

 

 この記事の中に「アルチザン性」という言葉がある。

 フランス語で職人、を意味する言葉だが、ここに日本らしさ、日本の良さという価値が発現すれば、その日本らしい世界を構築する素材であれば、日本の素材産業としての役回りにマッチするのではと感じた。

 

 ここでは主要プレイヤーは対象としての顧客であり、日本らしい世界(=製品、サービス)を提案するデザイナー。そしてそのデザイナーが実現したい世界を叶える魔法のツールとしての素材を開発できれば、一つの大きな新しい方向性ではないかと感じる。

 

 じゃあ具体的にどうするの?これまでのアプローチと具体的にどう違うの?というところを次回以降に掘り下げたい。

(part2で終わるはずだったのに・・)

 

 

2019-05.素材とブランド(多分part1) ~素材は"主役"ではなく"ツール"なのか~

暑い。連日暑い中、毎年恒例の化学業界売上 global top50がChemical&Engineering Newsから報告された。

https://cen.acs.org/business/finance/CENs-Global-Top-50-chemical/97/i30

f:id:shotam:20190813220023p:plain

出典:https://cen.acs.org/content/dam/cen/97/30/WEB/globaltop50-2018.pdf

(上記は上位30位までの抜粋)

 

 なお、上記の売上高や利益の集計は会社全体の売り上げではなく化学部門のみ。よって化学会社の一部門となる場合もある製薬部門は含まれていない。

 

●日本企業の営業利益率の低さ

 最初に目につく売上ランキングに関しては、Dow/Dupontの強強合併で新会社誕生により、これまで盤石首位だったBASFに替わってトップになった以外は大きな変動はない。

 一方で、chemical operating profit margin(化学部門の営業利益率)における、日本企業のそれの低さが気になった。

 

 top30までの半分以上の会社の営業利益率は10%を超えている中(これもすごいと思うけど)、10%を下回っているのは奇しくも日本、中国、韓国、タイ等のアジア企業。

 これらの企業がアジア地域に固まったのが偶然なのか、何か本質的な理由があるかを考えるのも興味深いが、ここでは一旦スルーするとして汗、日本企業の営業利益率の低さは、ここ数年変わらず低空飛行のまま。

 おそらく各社経営層はこのことを課題に感じ、ロジカルな攻め手を考えているだろう。そこで、ここではもう少しぶっ飛んだ対策を考えてみようと思った。

 

●ぶっ飛んだ利益率を出している他業界は?

 利益は(売上)-(コスト)。これまでの企業努力を考えると現状のビジネスを保ったままコストを下げることには一定の限界があろう。そこで売上を上げることを考えてみる。とはいえ、素材業界の範疇で考え続けていてもぶっ飛んだ手は出てこない。

 そこで、他の業界でびっくりするような利益率や価格設定をしている業界がないか考えてみた。

 

 

高い利益率、高い利益率・・

 

 

 

 

ぶっ飛んだ価格設定・・・

 

 

 

 

 

うーん、ダメだ、こういうのしか思いつかない

 

f:id:shotam:20190813222526j:plain

photo from Unsplash

 

ブランド品。

 

 

 私のような小市民には、たまたま通りががったブランドのうっすいコートがなぜ20万円もし(しかもこの暑い夏に既に店頭に並んでいる)、さらにその下に一見何の変哲もない(ようにしか見えない)革靴が10万円するのか、さっぱりわからない。

 

それでも百貨店やショッピングモールには今でも新店舗がオープンしている。

 

 webで「ファッション・営業利益率」で調べてみると、シャネルは営業利益率28%、LVMHは19%、Kering(Guccin等)も19%と出てくるわ出てくるわ・・・・これ以外もいわゆるラグジュアリー系のブランドの営業利益率は軒並み高く、あまりに羨ましくて私はそっとリンク先を閉じた。

(参考:https://note.mu/fukaji/n/n9b48919a6e98

 

どうしてだろう?

こういうアパレルのブランドと我々素材業界の何が違うんだろうか?

 

 

BtoCとBtoB、最終製品と素材、ブランド認知度の有無・・

 

個別に考えていきたいが、色々複合的な要素が多そう。一方で、 昨年ある出会いから、「ファッションブランド」と「素材」の融合はすでに起こりつつあることは認識していた。

 

パリコレで喝采浴びた新素材 研究者のアピールが奏功

https://style.nikkei.com/article/DGXMZO37381260V01C18A1000000/

 

 昨年この記事を見た時、「素材の可能性をうまく引き出したなあ」という感想だった。

 今、改めて振り返ってみると、この感想はあくまで素材産業を「主」と考え、デザイナーさんを「従」もしくは「手段」(失礼)と捉えていたきらいがある。

 

 ただ、顧客は「素材」を買いたいのではない。

 

●素材は"主役"ではなく"ツール"で考える

 つまり、顧客である最終消費者がお金を払ってでも手に入れたいのは、

素材メーカーが作りだした"材料"ではなく、

ファッションブランドが提供する”衣服”であり、"世界"であり、"ストーリー"なのだと。

 

 素材産業にいると、目の前のすんごい材料やテクノロジーを主役として考えてしまい、最終顧客へ提供する前に中継する役割として各種メーカーを考えていたのかもしれない(少なくとも私は)。

 

 素材産業の営業利益率を上げようとすると、他社に真似できない要素が必要になるため、材料で差別化!テクノロジーで差別化!と考えてしまいがち。その結果、素材だけで「世界」や「ストーリー」を作ろうとしてしまいそう(少なくとも私は)。

 

 しかし今では、この考えに少し無理があるように思えてきた。素材の「世界」、素材の「ストーリー」って何?具体的に何を構築すればいいのだろう。そして最終顧客はそれに共感し、お金を払うのだろうか。 

 

 顧客にとっては最終製品であるブランドが構築する世界やストーリーが魅力的であり、素材はそれを構成するのに欠かせない要素になればいいのではないか、つまり素材が主ではなくツールとして考える方が自然ではないか、と考えるに至った。

 

●で、日本の素材企業が利益率を上げるには?

 最初のお題:「日本」の素材企業の営業利益率を高めるには?まで考えなくてはいけない。具体的な策を考えようとしているタイミングで、いつもお世話になっているTメンターから以下のリンクを送っていただいた。

 

●外国人が欲しがる「日本の高級ブランド」5特徴

https://toyokeizai.net/articles/-/294830

 

最初は送られた意味が飲みこめず、スルーしてしまった(Tさんスイマセン)。この記事を深掘りしながら、もう少し考えてみたいと思う。今日はここまで・・

(暑くて集中力が持たない←言い訳)

 

2019-04. カスタマイゼーションは素材産業へも波及する?(国別編)

 6月最初の月曜、新幹線で関西から東京へ移動中。

 名古屋到着時に乗ってくる人をぼんやり眺めながら、車両に乗り込むときのいそいそとした動きが「大阪(せっかち)>名古屋>>>京都(はんなり)」だと今更ながら気付いた。

 

「同じ日本でも1時間移動するだけで、これだけ行動様式が異なるんだなあ」と当たり前のことを感じた。

 

 人々の趣味嗜好が地域や時代によって多様化すると、自分にカスタマイズしたサービス・製品を求めるようになる。

 自分にフィットする服を選び、自分が食べたいモノを食べ、自分が住みたい家に住むのは今も昔も変わっていない。さらに自分の嗜好がデータ化されている現代では、見たい(であろう)ニュースや欲しい(であろう)製品・サービスをストレスなく提供されている。

 この動きが加速すると、自分が関わる川上の素材産業に具体的にどのような影響があるだろうかと考えてみた。

 

●日本とインドで求められるプラスチックは同じ?

 一個人で考えるとミクロになりすぎるので、まずは最大上位概念の国別で考えてみる。製品レベルで考えれば各メーカーは既にそこに住む人の特性を理解したうえで、製品の特徴をカスタマイズして開発、販売している。

 例えばインドでのエアコンはスペースの問題?か室外機無しの窓はめ込み型タイプが存在するし、お手伝いさんを雇っている家では盗難に合わないよう冷蔵庫に鍵をかけられる仕様になっているし、イスラム教が主流の国ではお祈りの時間を知らせてくれるのがデフォルトになっている家電もある。

 これらの開発のために必要なアプローチが「顧客を観察しよう」「受けるか判らないから速攻プロトタイプを作って検証しよう」という動きであり、これがデザインシンキングの考え方とマッチして各社が盛んに導入しているのであろう。

 

 さて、ではその製品を構成するプラスチックや各パーツは国によってカスタマイズしているのだろうか?私の認識ではこれまでそのような例は殆どない。実はインド人が求めるエアコンの外装と、日本人が求めるそれは異なるのだろうか?

 

 そこでふと思ったのは、今までその各地でカスタマイズしてきた製品はその「人」に合わせていたというより、その人がいる「環境」に合わせきた、のではないだろうか?という点。

●なぜ「人」ではなく「環境」に合わせてきたのか?

 「環境に合わせてきた」という前提で話を進めると、その理由として①一人一人に対応していると量が出ずに固定比率が上がり原価が上がってしまうというコストの点と、②その当時「定量化」できたのが環境だけだったからではないかと。例えば

 

「40度を超える日が〇〇日ある」→「耐熱性のプラスチックが必要」

「ホコリっぽい」→「各パーツを隙間なく詰める製品設計が必要」

「平均収入が〇〇ドル」→「製品原価は△△ドルまで」

「平均的な家の大きさは●●m2」→「ボリュームゾーンの冷蔵庫の大きさは■■m3」

 

 これらはある程度定量化できるため、製品企画に落とし込みやすいし、周りを説得しやすい。一方で、

 

「インドの方は〇色のプラスチックが好き」

「中国の方は△の匂いがついているプラスチックのを好む」

「インドネシアの方は、押したときちょっと凹むプラスチックが好き」

「日本人は触った時に◆という音を出すプラスチックを好む」

(全部妄想です)

 

と言われると、「本当か?」という人も出てくると思われる(私も思いそうw)。

 

●テクノロジーの進化で人の五感を定量化できる時代へ

 人の五感に訴えるパーツに落とし込めるようになれば、よりダイレクトにその国に住む人向けにカスタマイズした製品を開発できるのではないだろうか。

「インド人向けプラスチック」

「中国人向けプラスチック」

「インドネシア人向けプラスチック」

「日本人向けプラスチック」

 

 これまでは人がどう観て・触れて・聴いて・匂って・味わっていたかが判らなかったが、既にロボティクスを始めとする人間の五感を定量化したいニーズに伴うセンシングの技術開発が進んでおり、今後五感の見える化が進めば人がその製品や樹脂、パーツに触れた時にどう感じたが定量化され、好ましいスペックに向けて新しい製品開発に繋がるのではないでしょうか。

 

 このような開発のデメリットとしては、上記①で言及したような1製品で量が出ずに固定費率が下げられずコストアップに繋がるという点。これに関しては製造業は「マスカスタマイゼーション」というキーワードで動き始めているので、その解決策とマッチすれば実現するのではと思います。結局人は自分に便利なものにお金を払いますし。

https://www.tel.co.jp/museum/magazine/manufacture/130920_topics_01/02.html

 

 私はディスプレイ関係の製品開発に従事しているので、特に視覚に注目しながら、「インド人向けディスプレイ」「中国人向けディスプレイ」なんてのができれば面白いなあと妄想を続けたいと思います。

 

 

 そうこう考えていると新横浜へ到着。

 おそらく我先に降り口に向かうのが大阪と名古屋の方で、優雅に待っているのは京都の方でしょうか・・・

 

2019-03.D-Labプロジェクト(第3弾)から考えた素材産業へのチャンス

 私が毎度正座して熟読している「シリコンバレーD-Lab プロジェクト」の第3弾レポートが4月末に公開された。

 

シリコンバレーD-Lab プロジェクト(第3弾)

~シリコンバレーから見えてきたMaaSの世界~

https://www.meti.go.jp/press/2017/01/20180131003/20180131003-2.pdf

 

●これまでのD-Labレポート

 D-Labレポートは2017年、モビリティ業界に起こる変革とチャンスについてのレポートとして公開された。

https://www.meti.go.jp/press/2017/04/20170404002/20170404002-1.pdf

 今後の自動車産業に対して大きな影響を持つ4つの因子(CASE)を具体的に認識すると共に、自らが関わる素材産業への具体的な影響を予測し、どう対応すべきかを深く考えることができた。

 

 D-Labレポート第2弾は2018年、大企業におけるシリコンバレー新規事業開発に関する内容であった。

https://www.meti.go.jp/press/2017/01/20180131003/20180131003-1.pdf

 

 シリコンバレーと記載されているが、現地であろうと日本であろうと、大きなうねりとなり始めていたデジタライゼーションの動きや新規事業開発について、深い考察と対策がまとめられていた。これも自らの素材産業にとっての影響を具体的にイメージすることができ、「で、どうするよ?」を仲間内で議論することができた。

 

 そして今回の第3弾は、自動車業界における4つの因子からモビリティとして統合的に考えるべきMaaSのトレンドについて、シリコンバレーで実際に起こっていることの紹介や日本の製造業(自動車産業や素材産業)への提言があった。

 

その提言を(勝手に)受け止め、素材産業のビジネスチャンスを妄想してみた。

 

●ビジネスチャンス(妄想)その1:「快適性」付与

 

 レポート中に競争軸やビジネスモデルの変化についての言及があった。

f:id:shotam:20190504112411p:plain

出典:シリコンバレーD-Lab プロジェクト (第3弾)P42

 顧客は車を求めているのではなく、移動を求めている。その移動に対するサービスの「差別化要因」として"移動時間の短縮、価格、便利"が設定されている。

 これに対して日本の素材産業が真正面に対応しようとすると、どうしても低コストにフォーカスしてしまい、最終的なコスト勝負で勝ち目がない可能性がある。そこで、これらの差別化要因に「快適性」を持ち込めないだろうかと考えた。

 

 同じ移動手段である航空業界でも、フラッグシップキャリアとLCCが顧客やシーンによって棲み分けされているように、例えば5分、10分のようなタクシーでいうワンメーターの移動であれば快適性は求めないだろうが、例えば30分以上の長時間移動なら、快適性は差別化要因になるのではないだろうか。

 たとえばこのGWのようにどこも混雑するタイミングで、高級ソファーのようなすわり心地や、内装全面にフレキシブルディスプレイがあって大画面でエンターテイメントが提供できる等のサービスがあって、従来より+1,000円で提供されれば、例えばお子さん連れの家族などへは喜ばれるのではないだろうか。

 (具体例:低反発素材、人口皮革、フレキシブルディスプレイ等)

 

●ビジネスチャンス(妄想)その2:素材のサブスクリプション~Material as a Service~

 

 P106に、私が十分理解し切れない内容があった。

f:id:shotam:20190504114003p:plain

出典:シリコンバレーD-Lab プロジェクト (第3弾)P106

 MaaSプラットフォームを提供する企業(MaaS企業)が稼働率が上がると収益が向上するのは判るが、彼らに自動車を提供する自動車製造業は車を売り切りで提供するのだろうか?それとも車も使った分だけ対価を支払うサブスクリプションの形で提供するのであろうか?

 もし後者であれば、素材産業も自動車産業へ素材をサブスクリプションで提供できる可能性がある。これが可能になれば、長持ちする素材(=低メンテナンスコスト)の価値が高くなるだろう。

 

 今までの素材や製品は、長持ちしてしまうとそれだけ交換需要が減ることから、売上を向上したいい製造業としては「丈夫な製品」と「交換頻度」がトレードオフになっていた。それが、長持ちすればするほど高く評価されるというのは、素材業界や研究者にとってとても健全だ。具体的に自動車部品としては、摩耗しにくいタイヤや、自動修復材料、太陽にさらされても見た目を保つ対候性が高い材料が重宝され得る。この分野は日本の素材産業は結構ガチンコ勝負できると感じる(P108,109に同様の言及有)。

 

具体例:低摩耗タイヤ、自動修復材料、高対候性プラスチック(ボディー、インパネ等)

 

●ビジネスチャンス(妄想)その3:低環境負荷素材

 P89に以下のようなスライドがあった。

f:id:shotam:20190504115333p:plain

出典:シリコンバレーD-Lab プロジェクト (第3弾)P89

 現状、MaaS企業のアプリを使うと(例:Uber)、A地点からB地点へのルートをリサーチすると、最適な(=早くて安い)サービスを提案してくるが、近い将来、「社会(環境)にとって」一番最適なルートも提示できるようになるだろう。それは全てライドシェアで済ますのではなく、例えば「徒歩」+「バス」+「ライドシェア」の組み合わせを提案してくる。

 このサービスは、サステイナブルや環境負荷低減に関心のある消費者へはとても訴求力があると感じる(私もそのような選択肢が提示されたら使ってみたい。地球に優しい人になりたいから)。そもそも車を持たなくなった消費者は効率性と共にそのような意識が高まっているのだと考えている。

実際日本でも様々な移動手段があるが、新幹線を提供するJRは、自家用車より飛行機よりバスより、新幹線が最もCO2低減効果が大きいことを"エコ出張"と銘打っている。

https://museum.jr-central.co.jp/materials/_pdf/tech_01_ha.pdf

 

 これは移動時のエネルギー効率の比較だと思うが、素材産業である我々の立場で考えても、その素材を作る際に必要なエネルギーや水の使用量を低減することで消費者に対してアピールすることができないだろうか。

「この移動手段(を提供するハードを構成する素材)を使うと、CO2や水の削減に繋がり、地球にやさしい移動になりますよ」的な。複数ある選択肢から、心と時間の余裕があるときは積極的に使ってみたいと感じる。だって地球にやさしい人間になりたいので。

 (具体例:各種素材の高効率製造技術)

 

 

 まだ他にも考えられそうですので、いろんな人と議論しつつ、今自分が始められることにつなげていきたいと考えています。

 

 

 

 

ということで、殆ど使っていない自家用車を昨日売却しましたww

2019-02.マテリアルズインフォマティクス(MI)成功のカギはRPA?

 来月から新年度。どの会社も新年度に新しい取り組みを進めるケースが多いだろうが、私が携わる素材・化学系の多くの企業において「待ったなし」になると考えているのが「マテリアルズインフォマティクス」。

 

■マテリアルズインフォマティクス(MI)とは

 マテリアルズ・インフォマティクスとは「データマイニングなどの情報科学を通じて新材料や代替材料を効率的に探索する取り組み」

(出展:マテリアルズ・インフォマティクス:株式会社日立総合計画研究所

 

 この動きは2011年にアメリカのオバマ政権時のMGI(Materials Genome Initiative)プロジェクトに始まる。そこから今に至るまでの歴史に関しては、以下のリンクが詳しい。このクオリティの資料が無料で閲覧できるって素晴らしい。

https://www.jst.go.jp/crds/pdf/2013/SP/CRDS-FY2013-SP-01.pdf

 

■今までの研究開発とどう違う?

 今までの研究開発の流れを乱暴に簡素化すると

①「(〇〇という仮説から or なんとなく)これがいいのでは?」と思って作り、

②作ったモノを調べてみるとダメで(上記仮説が間違っていると気付き)、

③また「じゃあこっちの方がよいのでは?」と思って作り、

④やっぱりだめで・・・の繰り返し

 

 これが100個に1個、1000個に1個しか当たらないという世界。製薬業界ではこの確率がさらに下がり、時代とともにその確率がさらに下がり続けている。よって製薬業界では自社開発を続けるのに加え、既に有望な候補材料を発掘したベンチャーと連携する方が合理的となる。

 

 MIは上記の様に新しいモノに一目散に飛びつく前に

①それまで蓄積した「モノ」と「実験データ」を集め

②「人間が思いつかない/まだ気づいていない相関」を見出し

③その相関を元に、提案されたモノの中からよりよい候補を選抜する、という流れ。

 

 これまでの研究開発と比べるとなんだかちょっとスマート。この取り組みが本当に機能するなら、従来の研究開発は不要になると直線的に考える方が多い。実際にこの1年での多くの大手化学・素材会社はMIへの取り組みを明文化している。

 

●三菱化学:マテリアルズ・インフォマティクス Center of Excellence (CoE) の発足について(2018 年 6 月 27 日)

https://www.mitsubishichem-hd.co.jp/news_release/pdf/00695/00779.pdf

●富士フイルム:人工知能技術の研究開発組織を設置(2018年7月9日)

https://www.fujifilmholdings.com/ja/news/2018/0709_01_01.html

●住友化学:2019~2021年度 中期経営計画を策定(2019年3月12日)

https://www.sumitomo-chem.co.jp/news/detail/20190312.html

 

 日経エレクトロニクスでも昨年特集を組んでおり、上記の流れが一層早まったのではと考えている。

待ったなし!AIで材料開発 | 日経 xTECH(クロステック)(2018年10月号))

 

■で、MIはうまくいくの?

 このMIが今年、来年、再来年に実用化されるなら今化学を学んでいる学生は、今からでも遅くない、異なる分野を学んだ方がよい。

ですが話はそう簡単ではない。個人的に感じているMIの課題として

 

①それまで蓄積した「モノ」と「実験データ」を集め

→データ数はどれくらい必要?実験データは5年前と今で測定条件は同じ?(前提条件はそろっている?)

 

②「人間が思いつかない/まだ気づいていない相関」を見出す

→本当に相関が見つかるか?その相関は正しいか?事実と異なる相関を真実だと捉えると、それ以降の取り組みは全て的外れになる

 

 ①だけでも課題山積。特に①のデータの前提条件の問題は根深く、同じ材料であっても企業間でも測定条件が異なるし(それが秘密情報で未来永劫開示できない場合もあるし)、大学でも時代と装置が変われば測定条件が変わる可能性がある。

 さらにそれらを検証する人がいないと、そのデータセット自体が危なっかしい。機械学習の分野でいわれるデータクレンジングがMIの世界でも必須。

 私はこの①の段階でMIは無理筋では?と思っていましたが、以下のような会社間を跨いだ取り組みも始まっており、難しい点もあると思いますが心から期待しています。

 

●NIMS・三菱ケミカル・住友化学・旭化成・三井化学、オープンプラットフォームの運用に関する覚書に調印 

https://www.nikkei.com/article/DGXLRSP448512_Z10C17A6000000/

 

■じゃあMIの一番の問題は?

 超絶前置きが長くなったのですが(今までが前置きかよw)、私がMIで一番課題だと思っているのが③です。③のどこが問題でしょう?

 

③その相関を元に、提案されたモノの中からよりよい候補を選抜する

 

 

ずばり「提案」。

 

これ、「誰が」提案するの?

 

 先の日経エレクトロニクスの記事をむさぼるように読んで気付いたことがあった。それはMIの成功例の9割が、電池電極材料を始めとする「無機材料」であったこと。私は無機分野は専門ではないですが、無機材料には

 

❶無機元素の結晶から成り、元素同士に固有の相性があるため結晶の種類が限られ、結果として最終的な選択肢は「有限」になる

❷結晶で発現する特性が無機材料の特性の大半を支配する

 

といった特徴がある。一方で有機材料は、

 

❶無機元素と同様に元素同士の結合に制限はあるが、結合「箇所」が膨大で、選択肢が「無限」になる

❷有機材料は結晶だけで特性発現するものは少なく、例えば膜にすることで電気が通ったり、色が出る等の特性が発現する。そこで成膜時の材料の配向や安定性、他の材料とのすり合わせ等、追加すべきパラメータが多い 

 

という傾向がある。

 

 私が最も課題と思っている「提案」に話を戻す。

 無機材料はその選択肢が有限であるため、計算対象材料を自動的に生み出す自動発生が可能。一度自動発生ができればそこから特性値を予測し、さらに特性値を上げられるような次の候補材料を自動発生させ、予測するというサイクルをコンピューター上で365日回せる。

 こうなると人間が思いつかない組み合わせや発想を、MIから導くことは可能性が高くなると思うし、実際に成果も出つつある。

 一方で有機材料は、2019年3月時点、この自動発生がまだできないというのが私の理解。このプロセスを人間に頼ってり、これならいくらMIを使っても驚く選択肢は出てこない。だって提案は人間がしているんだもの汗

 

 有機材料へのMI導入はこの自動発生が肝なんじゃないか?と最近実感するようになりました。どこかで「有機材料の自動発生」に取り組んでいないかなあと思ったら、この取り組みって、巷でホワイトカラーの仕事を奪うと言われているRPA(Robotic Process Automation)そのものじゃないか?と思うようになりました。

 

 今まで研究に関係ないと思っていたけど、研究開発とRPAって相性いいのかも?と初めて実感。この取り組みを行っている組織があればその動向をウォッチしながら、その仕組みを使う側に回るべく、準備したいと思います。

2019-01.素材のMaaS(Material as a Service)

2019年1発目ブログ。

 

昨年、正月からブログを書きまくり、成人式を待たずに失速した反省を踏まえ、今年は最低でも月1回、素材・化学に纏わる今後のトレンドを、webに載っていない所まで深堀りして記録していこうと思う。

 

と、これでも十分ハードルが高かったため、今年1発目の更新が今日(1月最終日)になったのだけど。

 

●MaaSはMaaSでも、Mobilityではなく・・・

今月一番気になった素材系のニュースはこれ。

「素材産業にも「MaaS」 三井化学、義歯を自動設計 」

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO40286970R20C19A1TJ1000/

 

世間一般に言われるMaaSは"Mobility as a Service"ですが、素材系は当然「Material as a Service」。この記事では三井化学を始め、旭化成、AGCとバイエルやBASF等の名だたる化学系企業が、サービスへのシフトを進めている、という特集が組まれています。

 

 今までは直接の顧客である企業から依頼があって、開発して、量産して、売り切って終わっていた素材を、顧客(企業あるいは消費者)に対して価値があり、かつ継続的なサービスに繋げるかという取り組みが、化学・素材系大企業の中でじわじわ始まっているということでした。

 

●これまでの開発とどう異なるのか?

 今まで素材は軽薄短小という「軽くて」「薄くて」「短くて」「小さい」という目標に向かって開発する方向はありましたが、仮にその機能が実現しても、そのまま価格に反映するとは限りませんでした。

 

 例えば今まで耐久期間が1年だった材料が2年持つようになったとしても、その素材に2倍の値段がつくことは寧ろ稀であったと思います。「前と同じ値段で2倍の耐久性でお願いしますー」的なw

 

 しかし、仮にMaterialにもService、つまりサブスクリプションのような仕組みが使えるなら、「使われれば使われるほど日銭が入ってくる」という仕組みが産まれます。

 

 例えばタイヤ。仮に1本4万円で1セット16万円のスタッドレスタイヤがあるとして、それらの素材の耐久期間が2倍に長持ちします!とアピールして2倍の値段になることはあまりない。

 しかし、タイヤのホイールにセンサーを組み込んで回転数をモニタリングすると、「動いた距離に応じて材料にお金払う」という仕組みが作れるのではないか。

 そうなると、走った距離だけすり減ったタイヤ(もとい、ゴム)にお金を払うという仕組みは、走った分だけ払っている今の保険と何ら変わらない概念になると思う。

 

 これが実現すれば、耐久性のよい材料、についての研究開発に投資する価値が高くなり、日本が元来得意としていた材料開発技術力が再び活かせるのではないだろうか。同じものを作るだけなら安い土地で安い人件費で低い歩留まりでも大量に作れる大国には勝てない。

 

 他の例としては、例えば掃除機、洗濯機等の家電に使われるプラスチック。

これまでは「耐久性」「高級感」という価値で売り切りのプラスチックが多かったと思われるが、これからは「2年に一度その時の家庭や環境に合わせた素材に交換しますよ」「年齢とともに使いやすい素材や大きさに変えますよ」というカスタマイズすることに対しておカネを払ってもらう仕組みができないだろか。車検ならぬ家電検。

 そもそも家庭は、人数や年齢構成が常に変化するものなのに、家そのものや一度買った家電がずっと同じものとして使われ続けることの方がいびつなのでは?と感じる。車は人数によって形変えることは普通なのに。

 ということで、ものを使う人が常に変化するのであれば、その人が使うものが変化し、それに対応するサービスにお金を払うことはリーズナブルではないかと思う。

 

●で、本当にMaterial as a Serviceが実現するのか?

 Material as a Serviceに可能性を感じる一方で、大事なポイントは「材料にサブスクリプションの概念が当てはまるのか?」という点。

  そう思って、昨年発売された「サブスクリプション」を年末にざっと流し読みしてみた。

 

サブスクリプション――「顧客の成功」が収益を生む新時代のビジネスモデル 単行本(ソフトカバー) – 2018/10/25

https://amzn.to/2FXsdVP

 

 だが、実際の事例は小売業、メディア、飛行機、電車、自動車(これがMaaS)、新聞・出版業界等であり、素材に活かせそうな知見は見つけられなかった。

 筆者は「将来、あらゆるビジネスがサブスクリプション化する」という主旨を述べている。近いうちに材料系でも本気でこのような取り組みがじわじわ広がってくるのだろう。

 

 これからの世代に「所有から共有」というマインドが広まってくることを考えると、MaaSを提供する企業が努力するだけでなく、それを受け入れる消費者が増えてくることから考えても、まさに今がチャンスなのだと思う。

 

 

【余談】

 なんでこういう思考訓練をするのか?ということを考えてみると、単に個々のトレンドを調べ、将来の予測をしてみるだけでは面白くないので、こういう考えをしていくにつれ「あれ?これって新しい事業ネタになるんじゃね?」とか「あ、これ俺がやりたい!」とビビッと来るテーマを自分で探している、ということにも繋がっています。そんなテーマが、今年中に見つかることを期待しながら細々と続けていこうかと。

 

2018年の振り返り

2018年12月31日。思えば1年前の2017年大みそかに「ブログやってみよう!」と軽い気持ちで始めたこのブログ。途中からびっくりするくらいアップする頻度が落ちましたがw

2018年の大みそかは、鹿児島から青森まで新幹線で約11時間かけてのんびり考え事しながら移動しました。

 

今年1年、化学業界の顧客といえる自動車や家電、スマホといった製品に関するトレンドについて、いくつか気になる傾向が見られたのが印象に残りました。

 

①機能消費から意味消費へ:

 製品を「その機能が便利だから使う」というより、「こういうものを選んで使っているのが私という人間だ」という意思を示すものにお金を払う

(エコバックだったり、オーガニックの野菜だったり)

 

②個別化(カスタマイズ):

 高度成長期荷は当然だった「みんなが持っているもの(≒いいもの)をまずは手に入れたい」から「私という人間は私しかいないから、みんなと違うものが欲しい」へ

 

③シェアリング:

 ①と関連すると思うが「そもそもモノを持つってダサくない?」「え、新品買ったの?メルカリで安く買えるやん」「そもそも家とかいる?」という、所有から共有へのじわじわとした動き

 

④SDGs:

 前身のMDGsから先進国の人にも身近に感じつつあるSDGsを目にする人が増え、「地球を大切に」「資源を大切に」というメッセージも身近になってきた

 

 これらの動きはどれもじわじわという速度だけれど、

「いい製品を開発して、大量消費の前提で大量生産し、コストを安くして顧客もハッピー」という化学メーカーの鉄板勝ちパターンから、

「個別化・シェアされる製品は沢山は売れないので、沢山は作れない」前提になるので売上が下がることが想定される。

 大企業における「新規投資が〇〇億円必要だから、事業規模が大きくないとOKがもらえない」→「だけど売上が昔より見込めない」→「投資NG」という流れが来て、事業規模が小さくても尖った製品を作ることができるベンチャーだったり事業規模が小さくても顧客に選ばれる製品を作ることができる会社も、今まで以上に存在感を出せる時代が来るのでは、と勝手に妄想しています。

 

 11時間も考えているのに思考がだいぶ浅いですが汗、

この流れが来年も続くのか?

どこを見ればそのトレンドが読めてどこがティッピングポイントなのか?

について、自分なりの指標を持ちながら「で、私(当社)はどうするのか?」を考え続けていきたいと思います。

 

この現状を踏まえると、こういう行動に価値があるのでは?という仮説は1つ持っていますが、それは来年いろんな人に話しつつブラッシュアップしていこうと思います。

 

来年もひたすら考え、行動し続ける一年にしたいと思います。