化学産業がシリコンバレーに行く意義-仮説②「モノからサービス」を具体的に考える

 昨年11月中旬に1週間シリコンバレーを訪れました。

 色んな目的があったのですが、その一つに、現地で当たり前になりつつある車のシェアリングサービスに化学産業を掛け合わせた事業案を考えるということ。

 

 先の投稿(http://beyondthechemistry.hatenablog.com/entry/2018/01/06/002555)のように、モノをシェアする時代がやってくると、そのモノは売れなくなります。モノが売れなくなると、モノを構成する要素も同様に売れなくなる。

 

 例えば車が売れなくなると、タイヤやガラス、ボディーも売れなくなる。正確に言うと売れる数が減る。人口減少もなく、所得低下もなく、外部要因が全く変わっていないのに売り上げだけが単純に減るという「ちょっと待てよ!」というシーンが来る可能性があります。

 

だから「モノからサービスへ」って?

 このような局面を迎えるにあたり、製造業では"「モノ」から「サービス」へ""「モノ」売りから「コト」売りへ”というフレーズをよく耳にするようになりました。私がその時よく理解できていなかったのは、「じゃあ今までモノばかり売り切りだった企業が具体的にどう転換するのか?」という点です。

 

 今回、それを考えるヒントをもらえたのが、現地で何回も使ったUber、ではなく競合のLyftで出会ったドライバーとの会話でした。

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(写真:空港から最初に乗ったLyft。ガラス右側に四角いステッカー(Lyft)と丸いステッカー(Uber)。彼はLyftドライバーでありUberドライバーでもある)

 

 いかつい運転手は黙々と運転する。ちょいちょい話しかけていると、途中でこんなやりとりがありました。

 

私:Lyftだとあちこち運転すると思うけど、どの辺に住んでるの?

Lyftドライバー(ド):ここから20分くらいのところ。行動範囲も大体この辺が多いで。あ、でもカーステーションに行かないといけないのが面倒やわ。

 

私:カーステーション?

ド:おう。実はこの車、俺のじゃないんだ。だからカーステーションに行かなあかんねん。

私:へ?借りてるってこと?誰から?

 

 

ド:Lyftから。

 

私:へーLyftはそこまで準備してでもドライバーを増やしたいんやね。で、カーステーションって何よ?

(私の心の中:よし、ここで私の仮説「一日中走り回っても壊れない耐久性のある車」があったら嬉しい?って聞こう。絶対欲しいって言うはずだ!)

 

ド:Lyftは市(city)に一つずつサービスステーションがあって、半年に一回行かなあかんねん

 

私:半年?車検みたいなもん??

 

ド:車検って知らんけどww とにかく半年に一回。結構チェック待ちの車で混んでてチェックされるのに時間がかかる。

 

私:チェックして問題なければ?

ド:それで終わり。また走り出すだけ。故障しかけていたらパーツとか替えることもあるし。

 

私:(ハッ!)じゃあそのカーステーションに、

「予め交換必要なパーツが判ってて用意されていて、到着後簡単なチェックの後にすぐパーツを替えて終わり」ってなったら嬉しい?

 

ド:そりゃ嬉しいんちゃうか。チェックする人員も減るだろうし。

 

大量生産からオンデマンド生産

 これまでのような巨大工場で各パーツを大量生産し、在庫を持ちながら適宜各地域の拠点に運搬する方法でもよいですが、一義的になり、振れ幅のあるニーズに対応するのは逆に非効率になりそう。適材適所にオンデマンドでパーツさえあればいい、という必要条件であれば、3Dプリンターで作る方が優位です。

 

 各拠点に3Dプリンターを置き、車の部品の劣化度合いや定期交換時期は予めセンシングしておく。車がサービスステーションに入ってIDを認証するだけで、交換部位の有無なども瞬時に判断できて効率化に繋がります。

 そして車の故障頻度や回数は都度変動するので、車が到着する時間が判ればパーツを現地で生産して待機しておくオンデマンドサービスに繋がるのではと思いました。そうなると化学企業も自社のパーツを3Dプリンタ―で生産しつつ、その他の製品も取り揃えておく、シェアリングを支えるプラットフォーム事業に進出できるのでは、と。

 

軍隊でも3Dプリンター?

 このぼんやりとした考えがフラッシュバックしたのはそれから3日後、IDTechEx Showというカンファレンスに参加した時でした。

 錚々たるテック企業が最先端のテクノロジーやデバイス、ビジネスを発表する中、登場したのは泣く子も黙るUS army。

 

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 表紙からも、登壇者からも、漢のにおいしかしないw

 

 ですが内容は至って全うで、一言でいうと

「陸軍にとって3Dプリンターの活用が極めて大事」というお話。キーワードは「readiness」(=準備万端)でした。

 

 軍隊は武器等を持ちながら各所を移動しないといけないし、戦闘が長引くと武器が不足してくる。その時、に各滞留拠点で武器を作ろう、というロジカルなような怖いようなコンセプト。

 

 実際にグレネード弾を3Dプリンターで作ったらパフォーマンス?が30%増したぜ、との報告もありました。軽量であり必要になってから作ればOKなのでいいことずくめだそう。

 事前にアブストラクトを見た時は「まあ一般論を語るんだろうな。陸軍だからあまり秘密な話はできないだろうし」と思っていたので、グレネードのくだりから驚きの連続でした。軍隊の中にある10個前後の組織が協力してさらなる開発にいどんでいるとのことでした。

 

まとめ

 今回、シェアリングサービスや軍隊(!)においても、その場でオンデマンドでモノを作る、というシーンに価値があるということが判りました。全てそうなるわけではないですが、顧客とその使うシーンを具体的にイメージできれば、これまでの大量製造ありきの製造の役割の一部置き換える可能性が十分にある、ということを実感しました。

 

 また、各パーツを製造する化学産業であっても、そのようなオンデマンドサービスに自ら参入し、自社のパーツを含めて提供することを「サービスを提供する」、と言えて、化学産業におけるサービス化やコト売り、と捉えると少し具体性が増したかな、と感じた経験でした。