2020-03. プラネタリーバウンダリー×化学を考える(part3:3つの分類)

 前回2月半ばのブログから1か月半たった4/11(土)。

 あの頃と今では世界が一変した。特に4月に入ってからは、ウイルス撲滅を意味する"afterコロナ"を考えるのではなく、ウイルスと共に生きる"withコロナ"の世界を考える動きにシフトしている印象。

 

 世界全体がコロナウイルスとの向き合い方を考えている今、あまのじゃくな私は思えば昨年から世間の話題になっていた「サステナビリティ/地球を守る」ことについて、素材産業ができることを粛々と考えていこうと思う。

(数年後誰かがこのブログを参考にしてくれることを祈りつつ)

 

●これまでのおさらい

 今年に入って本ブログ内では"プラネタリーバウンダリー"を話題に出している(もとい、その話しかしていない)。プラネタリーバウンダリーは簡単に言うと「人間が地球上で持続可能な活動する上で守るべき項目」であり、以下の9つからなる。

 

・気候変動 ・生物圏の保全 ・新人工物質 ・成層圏オゾンの破壊 ・海洋酸性化 ・リンおよび窒素サイクル ・土地利用の変化 ・淡水利用 ・大気エアロゾルの負荷

ja.wikipedia.org

 ただ列挙するだけではそれらの相関関係や重要度が判りにくいため、誰かがその相関関係をまとめてくれていると思っていたが検索しても出てこないので、勝手にその関係をまとめて前回書いてみた。

beyondthechemistry.hatenablog.com

 

 次に考えるべきことはこれら9つをどう解決していくか。9つと言ってもそれぞれに特徴があり、私が参考している書籍では3つのグループに分類している(P70)。 

小さな地球の大きな世界 プラネタリー・バウンダリーと持続可能な開発

小さな地球の大きな世界 プラネタリー・バウンダリーと持続可能な開発

  • 発売日: 2018/07/12
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

・グループ1:明確に定義された閾値があるプロセス

  →「気候変動」「成層圏オゾン層の破壊」「海洋酸性化」

 

・グループ2:穏やかに変化する地球環境に係る変数

  →「土地利用の変化

」「淡水利用」「生物圏の保全」「リンおよび窒素サイクル」

 

・グループ3:人間が作り出した2つの脅威

  →「新人工物質」「大気エアロゾルの負荷」

 (注:本文中表記は若干異なる)

 

f:id:shotam:20200411155646p:plain

出典:「小さな地球の大きな世界」

●グループ1の特徴

 グループ1は地球に対する明確なアウトプットであり、ある程度計測可能なパラメータと捉えられる。気候変動は気温の計測によって推移が確認できる。オゾン層の破壊に関しては地球に降り注ぐUV光のモニタリングが一つの指標になるだろうし、海洋酸性化は高精度なpH測定である程度定量化可能であろう。

 さらにこれらの項目は人間に対する悪影響の閾値が見積もりやすい。気温やUVの照射が人体にどういう影響を及ぼすか、海洋酸性化が海に住む生き物にどういう悪影響を与えるかは、これまでの実験例や悲しくも起こった過去の事件から、ある程度原理的に見積もり可能だろう。また、これらは大気や海に関するパラメータであることから、一国だけ特異的に起こる現象ではなく、グローバルな指標である。「日本だけが困る」「アメリカだけが困らない」というパラメータではないから、本来は全世界的に合意が取れてもおかしくない(はずなのに、なかなか各国の合意が得られないのがこの問題の難しいところ)。キーワードは「10年後の世界中の人に感謝されるソリューション」といったところ。

 

●グループ2の特徴

 グループ2はグループ1と比べて緩やかな変化であり、かつどこに変曲点があるか判りにくい項目に感じる。計測しにくいうえ局所的に影響を及ぼすため、それが課題になっていない国や地域だと「なんでこんなことを取り上げているんだ。我が国は安泰である」と当事者意識を持ちにくいかもしれない。だからこそこの機会に敢えて取り上げ、それらの課題を取り返しがつくうちに、前もって解決する方法を考えないと、と個人的に考えている。いわば「100年後の一定の国の住民に感謝されるソリューション」を。

 

●グループ3の特徴 

 グループ3は人間が地球上で発展してきた産業が産んだ副産物として発生した課題であり、まだその影響が指標化されていない項目である。ただし、ターゲットはある程度明確で、これらを撲滅できるのは我々素材業界しかない。一番貢献しやすい項目であるとも感じる。「素材産業の中期経営計画に上がりやすい項目」か。

 

 本来ならここから1つ目の課題について考察しようと思っていたが、長くなってきたので、次以降のエントリで考察する。次回はこれらの項目の中で一番話題に出ているであろう、グループ1の気候変動について取り上げる予定。

 

●偶然にも・・・

 最後に、私が尊敬しているヤフーCSOの安宅さんが昨今のコロナウイルスによる全体像を俯瞰するブログエントリをアップされておられた(2020/4/4)。その内容を正座し拝読している中で、こんなことを書いておられた。

 

kaz-ataka.hatenablog.com

 

(以下、引用)

したがって、我々は当面、(感染爆発を極力抑止し、ワクチン開発とその展開に最善を尽くす前提で)この疫病と共存的に生きていくしかないというのが現実的なシナリオと言える。僕らは再び、70-80年前に戻ったのであり、ある種の慎重さと生命力が何よりも問われる時代に舞い戻ったということができる。

また、詳しくは拙著『シン・ニホン』6章を読んで頂ければと思うが、向こう数十年のうちに北極、グリーンランドの氷のほぼ全て、南極の氷の多くが一度は解ける可能性が高い。これはアルベドと呼ばれる太陽放射の反射率が雪や氷と海や陸地では全く異なるために正のフィードバック(ice-albedo feedback)が劇的に効きやすいことが大きく、我々ホモサピエンス(ご先祖様たち)がぎりぎり生き抜いていた氷河期の最中でも何十回と起こったと見られる現象だ。

そうすると当然のことながら、泥炭地などからメタンなどの極めて温暖化効果の高いガスがまとまって出てくる可能性が高く、温暖化が更に加速する。さらに、我々の先祖の多くが苦しんだ様々な病原体(細菌やウイルス)が氷の中から出てくる可能性がそれなりにある。この中には100年前に5千万から1億人の命を奪ったスペイン風邪(Spanish Flu)のような強烈なインフルエンザのような風に乗って飛来する(airborne)ものがあってもおかしくはない。

 (引用終わり)

 

 偶然にもウイルスに関するトピックでありながら、気候変動についても言及されておられる。上記記述のように、これまで厚い氷に覆われ大地に眠っている未知のウイルスを、大地中に留められる可能性もあるかもしれない、とのことで、気候変動は色々な項目へ波及する可能性を強く秘めていることだけは間違いない。

 

 コロナウイルスのことは皆さんに任せて、と言いつつも、気候変動を抑えることは地球だけでなく、人間、そして人間とウイルスとの共存に関しても効果的なのかもしれないと考え、改めて解決策を早期に練っていこうと思った次第。