2021-01. プラネタリーバウンダリー×化学を考える part4:生物圏の保全(生物多様性)-現状把握編

 とっても久しぶりのブログ更新。気づいたら2020年が納まり、2021年が明けていた。

 2021年も世間のニュースがコロナウイルス一色の中、その次に大事になるであろうキーワードについてゆるりと考えたことを書き残していこうと思う。

 

●これまでのおさらい

 このブログで2020年1月から1年以上「プラネタリーバウンダリー」という概念について考えてきた。プラネタリーバウンダリーとは、簡単に言うと「地球の限界」。

プラネタリー・バウンダリー - Wikipedia

 

 プラネタリーバウンダリーという概念が良いなと思ったのは、「地球が危ない」というふわっとした抽象的なメッセージをきちんと多面的に評価している点。

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 およそ50年前には「今日は光化学スモッグがひどい」と言われ、その次に「オゾン層が破壊される」というメッセージが聞こえ、昨今では「地球温暖化が進んでいる」「二酸化炭素濃度が増え続けている」といった警鐘が鳴らされている。光化学スモッグは今やインドなど今後栄える国へ移動している。じゃあ、結局グローバルで考えるとどれが一番危ないの?という素朴な問いに答える情報はなかなか得られなかった。

 

 それがこのプラネタリーバウンダリーでは、提唱者の判断基準はさておき、一定の閾値で現在地を決めている。

 そしてその中で今特に危ないと言われているのは、光化学スモッグでもオゾン層破壊でも、温暖化でも二酸化炭素濃度の増加でもなく、「生物多様性」(記載上は生態圏の一体性)と「窒素・リンの富栄養化」である。

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出典:書籍「小さな地球の大きな世界」

 

じゃあ、この特に危ない項目からしっかり考えないといこうということで、このブログでは生物多様性について現状把握してみる。

 

●そもそも生物多様性とは

 生物多様性という言葉は、たまに耳にすることもあるかもしれないが、その言葉が使われたのは意外と最近。1985年のアメリカ合衆国研究協議会(National Research 1985 Council) の生物学的多様性フォーラム計画中の発言だった(出典:wikipedia)。まだわずか36歳。私より若い。

 

生物多様性 - Wikipedia

 

 その生物多様性には3つの種類があり「遺伝子の多様性」「種の多様性」「生態系の多様性」から構成されている。世間で話題となっているのは「生態系の多様性」であり、その生態系の多様性が急激に失われつつあるというのが著者の主張である。

 

●生物多様性が減少すると何がよくないのか?

 では生物多様性の一つである生態系の多様性が失われると人類にどういうしっぺ返しが来るのだろうか?(最初は私もピンとこなかった)

 

【生物多様性の恩恵】

1.大気と水(基盤サービス):

 酸素の供給、気温、湿度の調節、水や栄養塩の循環、豊かな土壌

2.暮らしの基礎(供給サービス):

 食べ物、木材、医薬品、品種改良、バイオミミクリー(生物模倣)

3.自然に守られる私たちの暮らし(調整サービス)

 地域性豊かな文化、自然と共生してきた知恵と伝統

4. 文化の多様性(文化サービス)

 マングローブやサンゴ礁による津波の軽減、山地災害、土壌流出の軽減

 

生物多様性のめぐみ | 生物多様性 -Biodiversity-

 

 なるほど・・・生物多様性の恩恵として具体的には1のような基盤サービスをイメージしやすいかもしれないが、人間が地球と共存していくうえでは3や4はかけがえのない恵みのように感じた。

 そして生態系が少しずつ変化していくと、自分の世代と子供の世代で囲まれている自然環境が変わる可能性があり、当然のように感じていた四季に対する感覚も世代で異なってくるかもしれない。

 そしてこれらの生態系の多様性の減少は、仮に種が絶滅してしまうと取り返しができない、という意味で、もっともっと危機意識を持つ必要があると感じた。

 

 さて、このようにじわりじわりと人間の生活にも影響を及ぼしかねない生物多様性の減少、どうやって食い止めようか。。。それはまた次回のブログで。

(といっていつになることやら・・・)

 

2020-03. プラネタリーバウンダリー×化学を考える(part3:3つの分類)

 前回2月半ばのブログから1か月半たった4/11(土)。

 あの頃と今では世界が一変した。特に4月に入ってからは、ウイルス撲滅を意味する"afterコロナ"を考えるのではなく、ウイルスと共に生きる"withコロナ"の世界を考える動きにシフトしている印象。

 

 世界全体がコロナウイルスとの向き合い方を考えている今、あまのじゃくな私は思えば昨年から世間の話題になっていた「サステナビリティ/地球を守る」ことについて、素材産業ができることを粛々と考えていこうと思う。

(数年後誰かがこのブログを参考にしてくれることを祈りつつ)

 

●これまでのおさらい

 今年に入って本ブログ内では"プラネタリーバウンダリー"を話題に出している(もとい、その話しかしていない)。プラネタリーバウンダリーは簡単に言うと「人間が地球上で持続可能な活動する上で守るべき項目」であり、以下の9つからなる。

 

・気候変動 ・生物圏の保全 ・新人工物質 ・成層圏オゾンの破壊 ・海洋酸性化 ・リンおよび窒素サイクル ・土地利用の変化 ・淡水利用 ・大気エアロゾルの負荷

ja.wikipedia.org

 ただ列挙するだけではそれらの相関関係や重要度が判りにくいため、誰かがその相関関係をまとめてくれていると思っていたが検索しても出てこないので、勝手にその関係をまとめて前回書いてみた。

beyondthechemistry.hatenablog.com

 

 次に考えるべきことはこれら9つをどう解決していくか。9つと言ってもそれぞれに特徴があり、私が参考している書籍では3つのグループに分類している(P70)。 

小さな地球の大きな世界 プラネタリー・バウンダリーと持続可能な開発

小さな地球の大きな世界 プラネタリー・バウンダリーと持続可能な開発

  • 発売日: 2018/07/12
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

・グループ1:明確に定義された閾値があるプロセス

  →「気候変動」「成層圏オゾン層の破壊」「海洋酸性化」

 

・グループ2:穏やかに変化する地球環境に係る変数

  →「土地利用の変化

」「淡水利用」「生物圏の保全」「リンおよび窒素サイクル」

 

・グループ3:人間が作り出した2つの脅威

  →「新人工物質」「大気エアロゾルの負荷」

 (注:本文中表記は若干異なる)

 

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出典:「小さな地球の大きな世界」

●グループ1の特徴

 グループ1は地球に対する明確なアウトプットであり、ある程度計測可能なパラメータと捉えられる。気候変動は気温の計測によって推移が確認できる。オゾン層の破壊に関しては地球に降り注ぐUV光のモニタリングが一つの指標になるだろうし、海洋酸性化は高精度なpH測定である程度定量化可能であろう。

 さらにこれらの項目は人間に対する悪影響の閾値が見積もりやすい。気温やUVの照射が人体にどういう影響を及ぼすか、海洋酸性化が海に住む生き物にどういう悪影響を与えるかは、これまでの実験例や悲しくも起こった過去の事件から、ある程度原理的に見積もり可能だろう。また、これらは大気や海に関するパラメータであることから、一国だけ特異的に起こる現象ではなく、グローバルな指標である。「日本だけが困る」「アメリカだけが困らない」というパラメータではないから、本来は全世界的に合意が取れてもおかしくない(はずなのに、なかなか各国の合意が得られないのがこの問題の難しいところ)。キーワードは「10年後の世界中の人に感謝されるソリューション」といったところ。

 

●グループ2の特徴

 グループ2はグループ1と比べて緩やかな変化であり、かつどこに変曲点があるか判りにくい項目に感じる。計測しにくいうえ局所的に影響を及ぼすため、それが課題になっていない国や地域だと「なんでこんなことを取り上げているんだ。我が国は安泰である」と当事者意識を持ちにくいかもしれない。だからこそこの機会に敢えて取り上げ、それらの課題を取り返しがつくうちに、前もって解決する方法を考えないと、と個人的に考えている。いわば「100年後の一定の国の住民に感謝されるソリューション」を。

 

●グループ3の特徴 

 グループ3は人間が地球上で発展してきた産業が産んだ副産物として発生した課題であり、まだその影響が指標化されていない項目である。ただし、ターゲットはある程度明確で、これらを撲滅できるのは我々素材業界しかない。一番貢献しやすい項目であるとも感じる。「素材産業の中期経営計画に上がりやすい項目」か。

 

 本来ならここから1つ目の課題について考察しようと思っていたが、長くなってきたので、次以降のエントリで考察する。次回はこれらの項目の中で一番話題に出ているであろう、グループ1の気候変動について取り上げる予定。

 

●偶然にも・・・

 最後に、私が尊敬しているヤフーCSOの安宅さんが昨今のコロナウイルスによる全体像を俯瞰するブログエントリをアップされておられた(2020/4/4)。その内容を正座し拝読している中で、こんなことを書いておられた。

 

kaz-ataka.hatenablog.com

 

(以下、引用)

したがって、我々は当面、(感染爆発を極力抑止し、ワクチン開発とその展開に最善を尽くす前提で)この疫病と共存的に生きていくしかないというのが現実的なシナリオと言える。僕らは再び、70-80年前に戻ったのであり、ある種の慎重さと生命力が何よりも問われる時代に舞い戻ったということができる。

また、詳しくは拙著『シン・ニホン』6章を読んで頂ければと思うが、向こう数十年のうちに北極、グリーンランドの氷のほぼ全て、南極の氷の多くが一度は解ける可能性が高い。これはアルベドと呼ばれる太陽放射の反射率が雪や氷と海や陸地では全く異なるために正のフィードバック(ice-albedo feedback)が劇的に効きやすいことが大きく、我々ホモサピエンス(ご先祖様たち)がぎりぎり生き抜いていた氷河期の最中でも何十回と起こったと見られる現象だ。

そうすると当然のことながら、泥炭地などからメタンなどの極めて温暖化効果の高いガスがまとまって出てくる可能性が高く、温暖化が更に加速する。さらに、我々の先祖の多くが苦しんだ様々な病原体(細菌やウイルス)が氷の中から出てくる可能性がそれなりにある。この中には100年前に5千万から1億人の命を奪ったスペイン風邪(Spanish Flu)のような強烈なインフルエンザのような風に乗って飛来する(airborne)ものがあってもおかしくはない。

 (引用終わり)

 

 偶然にもウイルスに関するトピックでありながら、気候変動についても言及されておられる。上記記述のように、これまで厚い氷に覆われ大地に眠っている未知のウイルスを、大地中に留められる可能性もあるかもしれない、とのことで、気候変動は色々な項目へ波及する可能性を強く秘めていることだけは間違いない。

 

 コロナウイルスのことは皆さんに任せて、と言いつつも、気候変動を抑えることは地球だけでなく、人間、そして人間とウイルスとの共存に関しても効果的なのかもしれないと考え、改めて解決策を早期に練っていこうと思った次第。

 

2020-02. プラネタリーバウンダリー×化学を考える(part2:項目相関図(個人的まとめ))

 前回のブログでついに「人類が地球に対してお金を払おうとしている時代」が来た!と書いた。


世の中にはいろんなタイプの人がいますが「今ある美しい地球を守りたい」という気持ちに対して全力で反対!という人はほぼいないのではないでしょうか。

 

その地球を守るための指標となる項目が「プラネタリーバウンダリー」。

ja.wikipedia.org

プラネタリーバウンダリーは、2009年ストックホルム・レジリエンス・センター所長のヨハン・ロックストローム氏を中心にしたグループが提唱した、以下の9つの項目から構成されている。

 

・気候変動

・生物圏の保全

・新人工物質

・成層圏オゾンの破壊

・海洋酸性化

・リンおよび窒素サイクル

・土地利用の変化

・淡水利用

・大気エアロゾルの負荷

 

以前紹介した「小さな地球の大きな世界」(丸善出版)では、この9つの項目についてある程度の定量的データを元に、2014年時にどういう状態であるかが記載されています。

www.maruzen-publishing.co.jp

 

 それぞれの項目について「まだ許容範囲内である」「危険な状態だが挽回可能」「もう取り返しがつかない状態」という点も記載されています。ただし、これらの解釈は人によって異なりそうなので、自分の頭で考えようと思っています。

  

 その前に、そもそもこの9つがどういう分類でどういう因果関係になっているかを整理してみました。

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(注:あくまで個人的なまとめ)
●まとめて見た感想

 地球にとって影響が大きいであろう、人口増加と経済発展を出発点に考えてみました。こうしてざっと眺めると、人口増から食糧増に伴う「農業・畜産・漁業」といった食糧を生産する産業を起点とする影響が多いなと感じました。

 9個のプラネタリーバウンダリーのうち、既に「リン・窒素サイクル」と「生物圏の保全(特に生物多様性)」は、2014年時点で既に限界点を超えていると上記の本で指摘されています。そして次に危ないのは「土地利用の変化」です。

 「リン・窒素サイクル」に関しては食糧増のニーズに応えるため、農地でリンや窒素を肥料として使っていることも影響していると想定していますし、農地拡大による土地利用の変化、並びに人口増加や都市化と相まって生物多様性の減少に影響する可能性があるなど、影響力が大きいのでは、というのが今回のまとめの気付きでした。

 いわゆる代替肉や、Agritechと呼ばれる農業を効率化するテクノロジーも含め、近年のフードテックはここへアプローチしていると考えると、応援したくなる動きです。

 

 次以降からは個別の項目についてもう少し整理しつつ、どこが本当に解決すべき点なのかについて、自分の考えを述べたいと思います。

2020-01. プラネタリーバウンダリー×化学を考える(part1:イントロ)

1月前半に1つイベントを終え、さあブログ始めようと思った矢先、新たなトラブル勃発。さすが本厄の大厄。初詣で厄除け祈願してもらえばよかった。。

 

ということで、トラブルも少し落ち着いたため、今年一発目ブログ。

 

今年1つ目のテーマはこれにしようと昨年から決めていました。「プラネタリーバウンダリー」について深掘りしようと考えています。

 

なぜ2020年1つ目のテーマをプラネタリーバウンダリーにしようと思ったかというと、「人類史上初めて、人類が地球をなんとかしよう、地球のためにお金を払おうとしている時代が来たのでは」と考えているためです。

 

●そもそもプラネタリーバウンダリーとは?

 プラネタリーバウンダリーとは「人類の活動がある閾値または転換点を通過してしまった後には取り返しがつかない「不可逆的かつ急激な環境変化」の危険性があるものを定義する地球システムにおけるフレームワークの中心的概念である。「地球の限界」 、あるいは「惑星限界」とも呼ばれる。」(引用:wikipedia)

 

 

ja.wikipedia.org

 

 簡単に言うと「地球が大変なことになる前に、地球を守るために順守すべき項目」と個人的に解釈しています。これらを守ることで、人類は地球のキャパシティ内で活動し続けられると捉えています。

 

 世の中全体を「人」と「地球(環境・社会)」に分けるとすると、私の属する化学・素材産業は主に「地球の苦しみを減らす/地球の快適を増やす」ことに大きく貢献できると考えています。

 他方で「人の苦しみを減らす(ヘルスケア・医療)や人の喜びを増やす(QOL向上))」ことは、医療機器や医薬品、エンターテインメント、旅行やゲーム等いろんな方法があり、必ずしも化学・素材産業が主役になれるとは限らない。

 

 そう考えると、化学・素材産業に携わる者として、地球に貢献できる素材やテクノロジーに対して、研究開発や事業化に携わりたいしなあと考えていました。

 

●人類が地球に対してお金を払おうとしている時代

 しかし、これまではそのようなテクノロジーがなかなか地球に貢献できなかったと感じています。例えばかつてのレジ袋有料化の取り組みが典型的な例。

 スーパー、コンビニを始めとするレジ袋は、今でこそマイクロプラスチックや海洋プラスチックの問題から悪者扱いされていますが、過去にもレジ袋を生分解性プラスチックを用いてゴミにならないような取り組みはありました。

 

 しかし合理的な消費者の方は「今まで無料だったレジ袋を何で有料で買わないといけないんだ」という考えを持ち、極論「0円で環境に残るレジ袋」が「10円で環境に残らないレジ袋」を駆逐していた時代がずっと続いてきたという認識です。

 

 ところが、上記のプラスチック問題が(私の想定より)長く持続し、カフェを始めとする飲食店が次々にプラ性ストローを代替する動きが出てきました。

 

 特に若い層を始めとする消費者も「地球に優しくないとダメだよね」というマインドが定着しつつあり、そんな消費者にサービスを提供する企業側も「そんな消費者に受け入れられるよう、わが社も環境問題を解決する取り組みを(お金を出してでも)行おう」という動きになり、これが持続しているのが2019年以降ではないかと感じる次第です。

 

 これは少なくとも私にとってはめちゃくちゃいい時代。こんな時代、今まで初めてでは?と思う位です。

 

●プラネタリーバウンダリーを学ぶ

 ということで、この地球を守ることがビジネスに繋がり得る時代に、どんな順守すべき項目があるのかを包括的に把握しようと思い、知り合いの紹介で昨年秋ころから読んでいたのが「小さな地球の大きな世界」という本です。

 

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小さな地球の大きな世界-プラネタリー・バウンダリーと持続可能な開発

 

 この本、私に関心のあるテーマが盛りだくさんで大変勉強になったのですが、翻訳の問題か構成のためか、とても読みにくかった・・・

 本は3000円以上するわ電子書籍もない状態ですが、ざっと概要を知りたい方は出版社から要点をまとめたpdfがあるのでこちらをどうぞ。

 

小さな地球の大きな世界』パンフレットpdf

https://www.maruzen-publishing.co.jp/files/%E6%9B%B8%E7%B1%8D%E5%96%B6%E6%A5%AD%E9%83%A8/%E3%82%AB%E3%82%BF%E3%83%AD%E3%82%B0PDF/%E5%B0%8F%E3%81%95%E3%81%AA%E5%9C%B0%E7%90%83%E3%81%AE%E5%A4%A7%E3%81%8D%E3%81%AA%E4%B8%96%E7%95%8C_%E3%83%91%E3%83%B3%E3%83%95%E3%83%AC%E3%83%83%E3%83%88.pdf

 

 地球を守るための守るべき項目が9個挙げられています。提唱されたのは2009年。

 ちなみにこのプラネタリーバウンダリーに関しては賛否両論あります。例えば気候変動に関しては「CO2増加は温暖化に繋がっているのか?設定された限界値は正しいのか?」云々。これはまだ結論が出ていませんし、これからもしばらくは結論はでないでしょう。

 

 これも自分の頭でしっかり考えないといけないですが、とはいえ「守るに越したことはない」項目ばかりですので、次回以降、それぞれについておさらいしたうえで、化学・素材で新たに取り組めることがないか?について考えていこうと思います。

 

2019-09. 素材企業におけるサーキュラービジネス~(part2:"廃棄価値"という新しい軸)

年の瀬に素材産業におけるサーキュラービジネスを考える第2弾。

 

 第一弾では世の中全体のサーキュラーエコノミーを考えるより、自分の手の届く範囲で確実に廃棄している"自社の廃棄物"に着目し、それらを活用して新しい価値を産んだり、他の使い道がないかを考えてみようと思った。

 

beyondthechemistry.hatenablog.com

 

●製品のリセールバリュー

 このブログの中で「一生の中で高価な買い物に分類される、家や車、衣服などであっても、使いたいときに手元にあればよい、複数人でシェアしてコストを押さえる、それが合理的だよね、と考える人の割合が少しずつ増えてきている」と記載した。

 家も車も人間にとって大切、だけどやっぱり高い。そうなるといざ何かあって手放すときに、それが資産となって高く売れるか?という「リセールバリュー」を念頭にいれつつ購入してきた人が多いであろう。それが人気のエリアにある住居なのか、あるいは中古車市場に人気のある車なのか。

(私が社会人になって最初に買った車は知り合いから「この会社はリセールバリュー低いよ」とはっきり言われたのを思い出した汗)

 

 家も車も高価な買い物だから判るが、衣服等の嗜好品や消耗品の部類でさえも、売却を意識して新品を購入している、という記事もあった。

about.mercari.com

 

これはサステナビリティという世間の潮流が今の若い世代からじわじわと浸透し始めている現代に、スマホや画像認識というテクノロジーの進化がマッチして無理なくCtoCでやり取りできるようになったということなのだろう。

 

●素材における"廃棄しやすさ"とは?

 ようやく本題。今まで顧客における製品の価値というのは「製品の中核」「製品の実体」「付随機能」という3層モデルになっていた。

cyber-synapse.com

 

 スマホだったら「①(当然ながら)話せる」「②(さらに)写真も撮れる」「③(おまけに)アフターサービスもある」という3層。これらがすべて満たされるとコスト勝負にシフトし、同じものをどこでも作られるようになると、より人件費や工場建設費の安い途上国にシフトするのは合理的な流れ。

 これに、これから「廃棄しやすさ」という価値が新たに産まれないだろうか。「廃棄しやすい」「分解しやすい」「分離しなくてもよい(=1材のみで構成される)」材料や、「アップサイクルしやすい」「CO2を環境に出しにくい」樹脂等。

 

 新しい軸の価値が産まれると日本の素材産業主導で世の中の人や地球に新しい価値を訴求できるのではないかと思う。

 

2019-08. 素材企業におけるサーキュラービジネス~(part1:自社の"廃棄物"を考える)

2019年もあと半月。

今年に入って「サーキュラーエコノミー」という単語を聞く機会が増えた。

www.huffingtonpost.jp

 

 記事中でサーキュラーエコノミーとは「従来の大量生産・大量消費・大量廃棄の経済モデルに代わる、地球環境や労働環境にも持続可能性をもたせるオルタナティブな経済の仕組み」とされる。

 

 ここに述べられている「従来の大量生産、大量消費」は従来の製造業の前提であった。人々が求めるモノをなるべく低コストで作るには、大量消費される前提で大きな工場で大量に作り、少しでも固定費を減らすことで製造コストを下げ、販売価格を下げていた。

 しかし今や、一生の中で高価な買い物に分類される、家や車、衣服などであっても、使いたいときに手元にあればよい、複数人でシェアしてコストを押さえる、それが合理的だよね、と考える人の割合が少しずつ増えてきている。

 このトレンドはほとんどの製造業(とそこに素材を提供する素材産業)にジワジワ影響を及ぼしてくるだろう。私が従事する素材産業としてどう行動していけばいいのか?という点を考え、行動しよう。

 

●素材企業におけるサーキュラービジネスとは?

 ここではあえて「サーキュラービジネス」という言葉に変えた。経営陣が「我々はサーキュラー"エコノミー"を実現します」というのはビジョナリーでよいが、現場の人間はサーキュラー"ビジネス"にして持続可能にしないといけない。

 その点で、先月発表された以下の取り組みは今話題の海洋ゴミを活用したサーキュラーエコノミーの実現に向けて大変啓蒙的ではある一方、コストを推測するにビジネスとしては成り立ちにくく、これはサーキュラービジネスに向けた端緒についた、という位置づけなのであろうと感じた。

www.sustainablebrands.jp

(記事より一部引用:テラサイクルでアジア地域を担当するエリック・カワバタ氏は「P&G社の協力がなければ実現できなかった」と話し、シャオファン氏はコストについて「赤字ではない」と言うに留まった) 

 

 「海洋ゴミ」や「マイクロプラスチック」は"世の中に出している"廃棄物。これに対して各企業がタッグを組んでこの問題を解決しよう!と動き出すのは良い流れであるが、どの企業がどの工程を解決するのか、そもそも廃棄される経路も複雑であり、少なくとも私は一体どこから手を付けていいか判らなかった。

 

 それよりももっと「自分が廃棄していることが明確で」「廃棄経路がシンプルで」「対策を考えやすい」廃棄物があるじゃないか、と気付いた。

 

 それは"自社が出している廃棄物"である。概要ゴミやマイクロプラスチックだけがサーキュラーエコノミーの対象ではない。

この考えは最近以下の本を読んでいて気付いた視点でもある。

 

ディープテック 世界の未来を切り拓く「眠れる技術」

https://www.amazon.co.jp/gp/product/4296103636/ref=dbs_a_def_rwt_bibl_vppi_i1

 

●"自社が廃棄している廃棄物"を減らす / 付加価値を与えることを考える

 化学企業なら「製造で使った排水」「原料が入っていた包袋」「実験室で使ったピペット」「使い捨てのガラス瓶」、さらには「製造時に副生する中間体やガス」など、たくさんの"廃棄物"が存在する。

 現在はそれらをある程度分類して(一部は再利用するものもあるが)廃棄し、まとめて焼却処分されているだろう。それを、何をどれくらい捨てているか判る自社だからこそできる方法を考えようと思う。

 自社では不要だが他の企業に求められないか、アップサイクルの方法がないか、別の用途に使えないか、少し加工して他の価値を生まないか・・・

 

●自社の廃棄物=自社の課題の解決

 今までは消費者にとって満たされていないニーズを満たすため、まずは製品の性能を向上させて顧客に性能面で訴求していた。

 巨大な産業である自動車も、まずは人を速く遠く快適に運びたいニーズから生まれたと考えると、今彼らが取り組んでいるEVや自動運転技術は、その製品が生み出した副作用、つまり自動車の排気ガスや交通事故を解決するサービスであると言える。

 

 化学・素材産業は、まずはその自動車(製品)を構成するために必要な材料を作ってきた。

 次はその材料を作るために付随した困りごと(環境汚染 / エネルギー消費等)を解決するために動ける時代が来た。これらは地球の環境問題の解決に繋がるアクションでもあるが、これまでは地球がお金を払ってくれる訳ではなく、「やってることは正しいがお金が稼げない」側面もあった。例えばレジ袋が通常無料か1枚5円で買っているところ、地球に優しい生分解性プラスチックで100円かかる、と言われると多くの人は選ばないだろう。

 

 しかし今や、欧州を始めとする各企業は、サーキュラーエコノミーを本気で押しており、最終顧客も性能ではなく地球に優しい姿勢を見せる企業を選ぶようなトレンドが来つつあると感じる。いい時代が来ている。個人的には、来年はそれに向けて全力で動いてみようと思う。

2019-07.素材とブランド(part3) ~「この件はあいつに頼ろう!」と想起されること~

 

自分で広げた「素材とブランド」に関する着地点が見えない。。

 

●2019-05.素材とブランド(多分part1) ~素材は"主役"ではなく"ツール"なのか~

http://beyondthechemistry.hatenablog.com/entry/2019/08/13/231840

●2019-06.素材とブランド(part2) ~素材に"新しい意味"を与えるデザイナー~

http://beyondthechemistry.hatenablog.com/entry/2019/08/18/132415

 

そもそも考え出した背景として

・日本の化学・素材産業は自動車、家電、製薬といった利益率が異なる業界に製品を提供しているにも関わらず、総合化学企業の営業利益率が見事にある地点(5%前後)に着地している

・これは素材そのものでの差別が難しいためであろう(この材料は儲かる!と判りかけた瞬間、他社は技術的に模倣。その結果価格勝負になって売価減→利益減)

・収益性を上げるには「この素材は唯一無二である」と思われ(せ)るブランド化が一つのアプローチ。しかし素材だけの差別化に意味があるのか?そうならば最終消費者へ価値を提案するBtoC企業が創る世界を実現するための"すぐ傍にあるツール"に徹した方がよいのでは、というのがpart1

 

 そのBtoC企業が創ろうとする世界は、製品の一本軸の特性最高値が喜ばれる世界であった(部品なら"軽く/薄く/短く/小さく"の軽薄短小)。

 しかし、近年豊かになってモノを持たない世代も増えてきた。その製品を使う(使わない)自分が"自分"であるという「意味消費」の割合が増え、ニーズも多様化してきたことから、それぞれの世界を具現化できるデザイナーさんとの連携が大事であろうとまとめたのがpart2であった。

 

●新たな疑問「そもそもデザイナーって??」

 ではそのようなデザイナーさんと具体的にどうやって連携を進めていくのだろうか。それを考える前にもう一つ疑問が湧いた。

 「デザイナー、デザイナーっていうけど、これまでも今も新しい自動車や家電を作る際には各社社内にデザイナーさんがいるはず。それと外部(独立)デザイナーさんはどう違うのか?」

 

 企業内デザイナーの友人にこの件を相談したところ、私の理解を超えるフィードバックを受け、私の頭はパンク状態に。自分の言葉で乱暴にまとめると、

・外部デザイナーの役割はプロダクトデザイン、ブランドデザイン、全体のプロジェクトマネジメント、デザインコンサルティングと多様である

・一方、社内デザイナーは専業(単一製品を担当)であることが多く、広い視野で活動できる人は限定的

・そもそもデザイナーとは絵を書く人のことではなく、「世の中全体を俯瞰し、課題を深堀りした上でその問題点を抽出し、解決策を妄想して形にする人」である

(デザイナーの方、認識違いをしていたらごめんなさい)

 

●これからの意味消費と外部デザイナーさんとの親和性

 ここまでくると「なるほど」と思うことがあった。つまり、従来のBtoC企業内のデザイナーさんは、自社の製品やサービスのためにコンセプトやブランドやプロダクトをデザインする構造になりがち。

 一方で外部の独立デザイナーさんは「これからの世界がどうなるか」「その時どういうサービスが求められるか」を起点に考察し、今存在していない「世の中にとって価値のある製品・サービス」を考える。

 それを形にしようと動き出すとどうしても世の中にない新しい素材や機能を持ったパーツが必要になり、それが素材業界へニーズとして変換され、我々の出番!となる。これは社内のデザイナーさんからは産まれにくいジャンルなのではないだろうか。

 

●意味消費→デザイナー→素材産業というバリューチェーンに乗るために

 1年ほど前にある化学企業と外部デザイナーさんとのコラボレーションの話を聞いた。その時、「むちゃくちゃ興奮した!ただ、この取り組みがうまく機能したとして当社に紹介して具体的に動き出すのは難易度高いなあ」と諦めかけていた。しかし、その方の後でさらっとコメントした内容がグサッ!と刺さった。

 

「こういう取り組みをどんどん発信し、

顧客から3番目に声をかけてもらう存在になりたい」

 

 これ、素材業界に従事する方は首がもげる程頷いているのではないだろうか。

 我々の直接の顧客であるBtoCの企業さんは、ある製品を開発するために素材産業へ新しいリクエストをする際、できそうな会社3社程度に声をかけることが多い(個人の感想)。

 

 つまり、実際にはその次の4社目、5社目が一番最適な解決策を提示してくれるかもしれないけど、その会社は4社も5社も同時に付き合っている時間の余裕がないので「なんか面白そうな提案をしてくる会社を2-3社」に絞って声をかけている。

 

 今までは「A社、B社、C社」の3つだけだったところに「あの会社、最近色々面白い取り組みをしているからちょっと声かけてみようか」と思わせるだけで大成功。本当に大成功。それ以降は技術力と提案力と多少の政治力の総合格闘技。

 しかし、総合格闘技で争うためにはまずは土俵に上がらねばならない。その意味で「あの会社最近おもろいよね」とBtoC企業だったり、最終消費者の方に思ってもらうのはむちゃくちゃ意義がある。

 そしてこのような活動をどんどんPRしていけば、様々なデザイナーさんに声をかけてもらい、これからの世の中に求められるニーズと、それを実現できる企業とのコネクションの確率がどんどん高くなる。 

●(強引な)まとめ

 こうすることで、ともすれば世の中の動向から離れた場所である素材産業でも、世の中の動向に対する「俯瞰・深掘・疑問・妄想」している人(デザイナー)と一人でも多く接し、新しい価値を産み出せるのではないでしょうか。

 そしてこのような人が社外だけでなく、社内にいることもその会社の差別化要因になるのではないかとも感じた。

 

 次の具体的なアクションとして、自分自身も当事者として「当社はあんなこともこんなこともしています」という公開情報をもっといろんな媒体を使ってオープンにしていこうかと。そうすれば思わぬつながりから新しい事業のタネが見つかるかもしれない。そこは全力で他力本願で。

 

 

 無理やり広げた素材とデザインに関する話が、なんとなく自分が納得する着地点に来れたかなと。。